「今後はトイレをきれいに使おうと思いました」PERFECT DAYS けいちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
今後はトイレをきれいに使おうと思いました
多感だった20-21歳の頃に観たヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩」は本当に良い映画でした。2番館で1回600~800円で何度も観た記憶があります。同じ映画を映画館で3回以上観たのは、生涯一度きりの経験です。僕の生涯ベスト5の3番目の映画です。とはいえ今回の映画は、事前情報では、きっと退屈な内容だろうな、名監督も年を取るとけっこう駄目になるだろうし、と予想しました。でもやっぱり観ないわけにはいかない、と思ってみてきました。
役所広司は確かにさすがです。毎日自販機で購入した缶コーヒーを飲みますが、BOSSではないようです。自販機の中からジョーンズはでてきません。トイレ清掃の仕事はたしかに大変そうですが、噂に聞く、有名デザイナーが手掛けた素敵なトイレなので、ぜひ入ってみたいです。そしてきれいに用を足したいと思いました。
役所さんは仕事のあと、通常3時に開業するであろう銭湯の一番風呂に入れていますし、居酒屋で晩酌したり、なじみのスナックにたまに行って石川さゆりの生歌を聴いたり、今話題のダイハツの軽自動車と自転車を保有していますし、コインランドリーで洗濯もしていますし、独り身ですが結構充実した生活をおくっています。ただ、この年頃は通常何らかの病気をするので、淡々とした日常を送れるとすれば、それはもはやファンタジーです。朝食を摂っていないのも身体に悪いです。なので絶対数年でこのような生活は破綻するはずです。そもそも、もっともっとつらいことがたくさん降りかかるのがリアルな日常です。小津安二郎好きのヴィム・ヴェンダース監督が理想化した美しい日本人の暮らしの一種のポエムなのでしょう、おそらく。なので、何かのメッセージが込められれいる、という印象は受けません。
音楽のセンスはさすがヴィム・ヴェンダース監督です。(たぶんAnimalsの)The House of Rising Sunが役所さんが車内でカセットでかかるのがぐっと来ます。スナックママの石川さゆりさんが同歌を日本語で歌う場面(ギターを弾く酔客はあがた森魚さん?)はかなり痺れました。
三浦友和さんがタバコでむせる場面では、若い頃、CABIN85のコマーシャルで「俺のキャビン」とかっこよくタバコを吹かしていた友和さんも禁煙してたのね、と思いました。
役所さんが住む古い2階建てアパートが僕が幼少期に住んだ田舎の官舎とほぼ同じ間取りで(石炭窯の風呂はありましたが)、同じように2階に布団を敷いて寝ながら漫画や単行本を読んで、AIWAのカセットレコーダーで音楽を聴いていまたし、近所の温泉銭湯に泥だらけになった僕はよく小銭を握りしめて入りに行きました。そう考えると、古びたアパートという演出も、当の日本人には昭和50年代前半の懐かしい光景でしかない、とも感じました。