「人生を楽しむ極意を学ぶ」PERFECT DAYS 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
人生を楽しむ極意を学ぶ
いつからか邦画NO.1男優という確信が揺るがない役所広司のカンヌで男優賞受賞作品であるので絶対観たいと思っていた。 公開初日に観賞。
【物語】
初老の男平山(役所広司)は浅草の安アパートにひとりで暮らし、公園の公衆トイレの清掃員として生計を立てている。
平山の日々の生活を描いて行く。
【感想】
平山の送る日々を淡々と映し出して行く。
特別なことは何ひとつ起きない。ストーリーは無いに等しい。
しかも台詞も極少。平山は直接仕事現場であるトイレに向かい、仕事仲間はタカシ(柄本時生)一人のみ、独り暮らし、生活範囲は限られているから接する人はごくわずか、しかも平山は超無口だから。
こう書くと「なんと退屈そうな映画」になってしまうのだが、それが全く退屈しないところが凄い!!
映像から訴えかけて来るものが十分にある。
この傑作の一番の貢献者はやはり役所広司だろう。
役所の顔をアップで映すシーンが多いのだが、台詞ではなく僅かな表情の変化で平山の感情を余すことなく表現している。観る度に役所の力量には感服してしまう。 邦画界では今現在に留まらず過去に遡ってもNO.1の役者ではないか。 今作でカンヌ最優秀男優賞を受賞し、日本だけでなく世界に冠たる役者として認められたことは凄く納得。
そして、こんな映画を作れるWim Wenders監督にも感服。欧州映画っぽい静かな作風の中で、こんなにも飽きさせない映像・演出・編集・音楽・・・、に脱帽。
まさに総合芸術作品だ。
で、何が良かったかをもう少し書いてみる。
本作はそんな作風なので、大感動があるわけでも無いし、感じ取るものは人それぞれだと思う。以下はあくまで俺が感じ取ったこと。
平山という男、経済的底辺にあり、プライベートでも家族も居ない孤独な生活。今風に言えば“負け組”の男だ。
が、傍から見れば負け組でも、本人は全然負けたとか思っていないというのが、この作品で描かれた平山だ。 その平山の生き様に俺は感銘を受け、生きる勇気を貰えた。
まず平山は自分の境遇に愚痴を言わない。「社会が悪い」とか、「会社が悪い」とか、「同僚が悪い」、あるいは「俺は運が悪い」とかも一切無い。凡人はすぐ他人の性にしたくなるのだが。 口にしないだけでなく、そういう思考は無いようだ。 それが観ていて何より気持ちが良い。
仕事に対しては決して手を抜かない。「この仕事に誇りを持っている」とも少し違うよう思う。もらった仕事は誰が見ていなくても目一杯やるという生きる上での姿勢だろうか。 さらに自分が恵まれた境遇ではないのに、他人に優しい。 すごく優しい。
そして何より良いのは、日々を楽しんでいる。もちろん、贅沢はできないが、自分の経済力の中で存分に楽しんでいる。
対比される人間として仕事仲間のタカシの存在がある。タカシは「今の世の中どうなってる」とか「金さえあれば」とかばかり言っているし、仕事なんて文句言われない程度にやっておけば良いと思っている。 この対比で平山の生き方が際立つのだけれど、程度の差はあれどタカシの方が“普通”に近いのではないかと思う。気付かないうちについついそういう思考になりがちだという意味で。 例えばお金はいくら有っても、自分よりさらに持っている人が身近にいれば、「彼ぐらいお金があれば、XXXできるのに」と羨んでしまうものだ。
平山が幸せと思っているかどうかは分からないが、生きていることを楽しんでいることは確かだ。他人と比べて悲嘆することや他人を羨むことをしないからだと思う。そうすれば、人は皆自分の境遇の中で生きる楽しみを見つけることができ、さらには他人に優しくすることも出来るのだと教えられた。
また、もう1つ本作に深みを与えているのは、全く語られない平山の過去だ。若い頃からずっとトイレ掃除をしていたようには思えない。姪・妹の登場で過去がかすかに仄めかされる。 若い頃に何かあって、今に至っているのだろうということだけ感じさせるが、それ以上描かれることなく、観客の想像に託される。
俺は、仕事も家族も思い通りに行かずに、大きな悲しみも、人知れぬ悔しさも味わって来た過去が平山にはあると想像した。平山はそれでも人を恨むことも、過去を悔み続けることなくしっかり前を向いて歩いている。
余白だらけの本作を観て感じることは人によって千差万別だと思うが、俺は平山のような心持で生きられたら、残りの人生10倍楽しめると思う。生活を楽しむ極意が平山の生き方の中にあると思うのだ。
“Perfect Days”観終わるとこのタイトルがとてもしっくり来る。
2024年俺的お気に入り作品ランキング 第2位(劇場鑑賞94作品中)
【オマケ情報】
平山の仕事現場となる公衆トイレはどれもスタイリッシュ。海外の人が観たら、「日本て、どの公衆トイレもこんなにが素敵なの?」と勘違いさせます(笑)
現代アート公衆トイレ図鑑的な楽しみも出来ます。