「日々好日」PERFECT DAYS ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
日々好日
渋谷区の公衆トイレ清掃員として働く『平山(役所広司)』の日常は
判で押したよう。
目覚まし時計に頼らず、
陽の明かりと近所の老婆の竹箒の音で目覚め
身だしなみを整えユニフォームに着替え
アパート前の自動販売機で缶コーヒーを買い車に乗り込む。
車の中ではお気に入りの曲をカセットテープで再生。
スカイツリーを眩しく見やる。
現場に着けば持ち場の掃除を卒なくこなし、
決まった神社の境内でサンドイッチと牛乳の昼食。
時としてトイレの利用者や、
同じ場所・時間で交差する人々との微かな交流はあるものの、
互いに深入りすることはない。
業務が終われば地元の銭湯でひとっ風呂。
馴染みの居酒屋で軽く呑み食いし、
就寝前には読書も欠かさない。
仕事が休みの日は溜まった洗濯でコインランドリーに。
古本屋で本を買い、撮った写真の現像にカメラ屋へ。
その日の〆は歌の巧いママが居るスナック。
五~六年も通うそこのママには
ほのかな恋心を抱いたりもする。
そしてまた明日からは仕事の日々が始まる。
『平山』は五十を過ぎ、妻も子もいない。
驚くほど寡黙で同僚とも必要な会話以外はせず、
自身の素性を語ることもなし。
仕事ぶりは至極丁寧。
清掃用具を自分で工夫し造ることも。
とは言え、若い女の子にチュッとされれば嬉しい。
その日は一日上機嫌だ。
そんなルーチンを乱す出来事が。
しかし日々の行動が変わっても
怒るよりも、どちらかと言えば楽しんでいるよう。
が、それが図らずも主人公の過去をあぶり出し、
万感のラストシーンへと繋がる。
彼の行動原理は
『宮澤賢治』の〔雨ニモマケズ〕を思わせる。
そして、下町然とした地域での人々のかかわりは、
水魚の交わりのよう。
こうした純日本らしい風俗を
外国人の『ヴィム・ヴェンダース』が描き出したことに
先ずは驚く。
取り立てての事件が起きるわけではない。
日々は淡々と過ぎて行き、
また明日も、昨日と同じような一日になるだろう。
それでも、それを善しとして、
楽しむ心構えが『平山』にはできている。
最近とみに増えて来た
ハイカラなトイレ群の背景はこうなっていたのね、との
清新な発見。
勿論、それを支えるソーシャルワーカーの人たちにも
思いは及び、
(今でもそうだが)この先は、あだやおろそかには使えない。
そうしたことに気づかせてくれた監督の視線の細やかさにも
改めて感嘆する。