劇場公開日 2023年12月22日

「豊かさってなんだろう?」PERFECT DAYS tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5豊かさってなんだろう?

2023年12月22日
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トイレの清掃員をしている一人暮らしの初老の男の、単調で質素な毎日が淡々と描かれる。
しかし、男は、そうした生活に不満を抱いたり、悲嘆したりするどころか、満ち足りた幸せな人生を送っているように見える。
しかも、そうした、余計なものが削ぎ落とされたミニマルな生き方に、知らず知らずに憧れを感じるようになっている自分に気付かされたりする。
ここで、改めて、「豊かさってなんだろう?」、「幸せってなんだろう?」ということを考えさせられる。
それは、日常の些細な出来事にも感動でき、「世界は美しい」、「人生は楽しい」と思える心の持ちようなのだろう。
朝、家を出て空を見上げる時の主人公の表情や、昼、神社の境内で木漏れ日を写真に収める時の主人公の様子や、夜、馴染みの居酒屋でチューハイを引っ掛け、銭湯で湯船につかる時の主人公の姿を見るにつけ、そう実感できるのである。
それにしても、主人公は、これまでどのような人生を送ってきて、どうして今の仕事をしているのだろうか?
苗木を育て、カセットテープでオールディーズの音楽を聞き、フィルムカメラで木漏れ日を撮影し、寝る前に単行本の文学を嗜む主人公の姿からは、豊かな感性と高い知性の持ち主であることが伺い知れるし、ラストの彼の泣き笑いの表情からは、様々なことを経験し、積み重ねてきた人生の年輪を感じ取ることができる。
実は、彼は、事業に失敗した実業家だったり、妻子を事故で亡くした大学教授だったり、刑期を終えて出所してきたインテリ・ヤクザだったりしたのではないかと、色々と想像を膨らませことができ、そういう点では、余白を楽しめる映画ではある。
ただし、キャラクターの掘り下げという点では、彼の過去について、もう少しヒントがあってもよかったのではないかとも思ってしまった。

tomato