「ある日ではなく日々ですね」PERFECT DAYS AMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)
ある日ではなく日々ですね
まさにパーフェクト。
さすがヴェンダース監督。最近見ないスタンダードサイズの映像の中で、おじさんが生活してるだけ。なんでもない日常を切り取っただけなのに、恐ろしく感情が同期される映画だった。私がおじさんだからというのもあるだろうけど、それだけでもないし、作風の好みや相性が良かっただけではないだろう。(と、思いたい)
話は、公衆トイレ掃除人の、変わり映えのしない日々が展開されるだけなのだが、いつのまにか引き込まれていた。
朝起きて、車に乗り好きな音楽を聴きながら仕事に行き、昼休憩と、帰り道、仕事終わりの銭湯や一杯飲み屋での、ちよっとした息抜き。夜は布団の上で好きな本を読んで、眠くなったら明かりを消して眠り、夢を見る。そしてまた朝を迎えて…。そんな彼のまさに完璧な日々。バタバタ仕事をしている我が身からは羨ましく思える、まさにパーフェクトな日々。
そんな平穏な日常に、周囲の人々から差し込まれるさざなみのような出来事。それらを温かく受け入れて、また平穏な日々に溶け込んませて行く。ルー・リードのPerfect dayが流れ、いつしかトイレの掃除人の人生に共感し、憧れすら抱いている自分に気付く。
もちろん、役所広司さんが素晴らしい。寡黙な男の設定なのだけど、それにしても最初の30分くらい一言も喋らない。おじさんが早朝に目覚め、布団を畳み、歯磨きや身支度をするだけの映像が淡々と流れる。普通なら、これ誰が見たいの…なのだが、さすがの役所広司さん。玄関を開け、空を見上げて深呼吸、自販機で缶コーヒー(もちろんBOSS)を買って、作業車へ乗り込む。(車はダイハツだったな)だいたいこのあたりまでが朝のルーチン。何度も繰り返されるのだが、それがなんか心地よい。詳細は控えるが、ラストも名シーンだと思う。
同じ役所広司さん主演で「素晴らしき世界」(西川美和監督)がある。あちらも社会復帰を目指して一人暮らしのおじさんの話。性格はほぼ真逆な足を洗ったヤクザの設定でしたが、良い映画でしたので、役所さんの演技を見比べてみるというのも面白いかも。
年の瀬に良い贈り物をいただいた。