「【”家族が望まぬ幼き子への、強制的な改宗が惹き起こした事。”今作は、人間にとって宗教とは何であるかを観る側に問いかける、史実を基にした重く哀しき作品なのである。】」エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”家族が望まぬ幼き子への、強制的な改宗が惹き起こした事。”今作は、人間にとって宗教とは何であるかを観る側に問いかける、史実を基にした重く哀しき作品なのである。】
■1858年、ボローニャのユダヤ人街で、ローマ教皇ピウス9世から派遣された異端審問官に率いられた教皇警察たちがモルターラ家の7歳の息子・エドガルドを、彼が幼き時に洗礼を受けた事を理由に連れ去る。
世論と国際的なユダヤ人社会に支えられ、両親は息子を取り戻そうと奔走する。
だが、教会とローマ教皇はエドガルドの返還に応じず、時は流れエドガルドは成人し、立派なローマカトリック教徒になっていた。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・1800年代のヨーロッパは、国家体制の転換期であり、ローマ教皇の権威も揺らいでいた事が、事件の背景にある。
・エドガルドが生誕6カ月の頃、病に罹りそれを心配した使用人のアンナは”悪魔”から命を守ろうと、簡素な洗礼をするシーンが描かれている。
では、その事実を誰が知り、エドガルドをユダヤ教からキリスト教に改宗させようとしたのかは、ユダヤ教徒から告発された異端審問官がはっきりと言わないため、劇中では明らかにはされない。
が、上述した時代背景がある事は間違いないであろう。ローマ教皇ピウス9世は、自らの権威を誇示するために、幼きエドガルドをユダヤ教からキリスト教に改宗させようとしたのである。
■ご存じの通り、キリスト教はユダヤ教から産まれている。ユダヤ教徒だったイエス・キリストがユダヤの教えに疑問を唱えた所から発し、更にキリスト教の中でも厳格なカトリック、プロテスタント、正教会など多数の宗派がある。
日本でも、仏教、神道があるが、日本人は宗教には余り固執しない民族で、寺に行くことも神社に行くことも同じように捉えている人が多いし、クリスマスにはにわかキリスト教になったりする。
だが、これが欧米、アラブになると宗教は厳格に扱われ、古来から大掛かりな宗教戦争が多発している事は周知の事実である。
今作は、この欧米、アラブの厳格なる宗教観を前提に描かれている事で、重い面白さと怖さに満ちているのである。
・ローマ教皇ピウス9世が、強引にカトリック教徒にしたエドガルドが、ドンドン敬虔なカトリック教徒になって行く様を見る時の表情が、何とも言えず恐ろしい。まるで新興宗教の教祖の様である。
<哀しいのは、成人したエドガルドが老いた母の病床に行き、洗礼をしようとするシーンである。
あれ程、エドガルドを求めていた母は、エドガルドの手を振り払いユダヤの教えを呟いて、息絶えるのである。
今作は、人間にとって宗教とは何であるかを、観る側に問いかける史実を基にした重き作品なのである。>
共感ありがとうございます。この作品を観てからちょうど1年たちました。予備知識なく観た映画ですが何か心に引っ掛かりがずっと続いています。近作「リアルペイン」を観た時も思い出しました。