劇場公開日 2024年4月26日

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「熟練の作品」エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命 Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0熟練の作品

2024年5月10日
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鑑賞方法:映画館

自由と平等を推し進める民衆と、それに対抗するカトリック教会。イタリア統一に一役買ったのは、広場の銅像になるような立派な英雄ではなく、無学な家政婦がきっかけだったという不合理で残酷な実話。

冒頭。ヘブライ語で赤子に祈りを捧げる父母。赤子の瞳は遠くを見通すように澄んでいて、まるで飼い葉桶に生まれ落ちた赤子のように特別な存在だった。それを覗き見る家政婦の視線は、その後の数奇な運命を示唆する重要なシーンだった。

ユダヤ人迫害、権力乱用というカトリックの傲慢さと凋落をあぶり出しながら、マルコ・ベロッキオは犠牲者の少年の痛みを現代社会に提示してくれた。

かくれんぼ遊びが家庭と教会で二度描かれる。イタリア統一という歴史の中で隠れてしまいそうなエドガルド。彼自身も自分がどこに居るのか分からない。

そんな彼を置き去りにせず、「あなたはどこにいるのか。どこにいようと我々はちゃんと見つけ出しますよ」とマルコ・ベロッキオの声が聞こえるようだった。

印象的なシーンは数多く。母のスカートの中、寝台のシーツの中、教皇の法衣の中、母との別れ。たった一枚の布切れが、少年の残酷な断絶を浮かび上がらせていた。

そして十字架から釘を抜いてキリストを解放するシーン。キリストは〝受難の象徴〟いばらの冠を捨てて歩いていく。

ユダヤ人でありながらユダヤ人に殺されたキリスト。キリストが磔になることで信仰者は罪から解放されるのに、キリストを十字架に掛けた責任はユダヤ人が負うべきだというのなら、ユダヤ人の僕がキリストを解放してあげるよ。

現実では宗教の和解は困難だが、少年の無垢な夢が、同腹の兄弟(ユダヤ教とキリスト教)をなんなく和合させたみたいで面白かった。

Raspberry