劇場公開日 2023年12月15日

「舌平目専用の調理鍋?」ポトフ 美食家と料理人 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0舌平目専用の調理鍋?

2023年12月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

料理、私のようなずぼらな人間にとっては「面倒」という思いが先立って早々やるまでに至りませんが、人が料理をしているところを見るほうは、ただただそのシーンが続いても延々と見飽きないものです。昔はそれこそテレビの「料理番組」を観ては食べたこともない料理に思いをはせていたわけですが、最近ではYouTubeで立ち食いそばなどの厨房を映して、何の解説も加えずに撮り続けている様子を切りなく観続けてしまうことがあります。
本作、見どころは何といっても料理シーンであり、しかも結構な時間を割いてしっかり見せてくれています。料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)を中心に、パートナーで美食家のドダン(ブノワ・マジメル)、そして二人の見習いが絶妙なリズム感と連携でキッチンを動き回り、次から次と料理を仕上げていくところは一種の気持ちよさを感じます。また、ふいに出されたひし形の鍋のようなものにピッタリとハマる食材が何と舌平目。事前に包丁を入れておろすこともなければ、皮もそのままの姿で調理されます。後に鍋から上げられ、こそげながら皮を外して見えてくるその身は、フカフカな感じが伝わってきて実に「旨そう」で思わず喉が鳴ります。
さて、本作は2023年・第76回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞作品。トラン・アン・ユン監督作品は過去2作品のみ鑑賞済みですが、どちらかというとアート映画寄りの作品性なのでしょうか。美しく雰囲気のある画と展開は、勿論いやな気はしないのですが、いかんせん眠くなります。以前、ほかの作品のレビューの際に告白いたしましたが、私、フランス語聞いていると眠くなります。今週は特に疲労もたまっていたせいで、料理以外のドラマシーンにおける殆ど展開しないながらも先の読める話や、そもそも、作品内におけるドダンという人の特殊で、一般人の私には想像がつかない世界の人たちのやり取りに、瞼を押して眠気と戦いながら観続けます。
そして、終盤のバッドヴァイブスな状況に、救いとなる見習いのポリーヌ(ボニー・シェニョー・ラボワール)という存在。大人の事情お構いなしに、火をつけられた料理に対する好奇心に対し「責任を終え」と言わないまでも、熱心に食い下がって辞めようとはしないポリーヌへ、若い熱意と才能に抗えずまた料理に向き直るドダン。ただ、私としては若干もう一人の先輩見習いのヴィオレット(ガラテア・ベルージ)が気の毒に見えるシーンに気を取られている思いを捨てきれませんが、作中のヴィオレットがきちんと弁え、やさぐれていないことを祈ります(苦笑)。

TWDera