劇場公開日 2023年12月15日

「食べてから観るか、観てから食べるか」ポトフ 美食家と料理人 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5食べてから観るか、観てから食べるか

2023年12月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

19世紀後半のフランスを舞台に、美食家のドダンとその住み込み料理人であるウージェニーの料理を通じた恋物語でした。冒頭料理を作る場面が続き、その臨場感とテンポの良さから、クライマックスに向けて「美味しんぼ」的な流れになって行くものと期待しましたが、その後は逆にゆっくりしたテンポで話は進んで行きました。それでも中盤、ユーラシア皇太子という謎の登場人物が現れ、彼に招かれて8時間(!)にも及ぶコース料理を食べたドダン。その料理の出来栄えに納得が行かない彼は、逆に皇太子を招待して本来家庭料理であるポトフを振舞うことを決意し、いよいよ料理対決=「美味しんぼ」っぽくなるかと思いきや、ウージェニーが身体を壊してしまいそんな話どころではなくなってしまうという展開。

結局料理は”つま”であり、話の主題は”妻”だったというオチに、個人的には期待外れな感じでした。

それでも本格フランス料理を作る場面には全編を通して迫力があり、かつまた肉や魚、野菜の彩りも素晴らしく、出来上がった料理は間違いなく美味しそう。よく「日本料理は目で食べる」なんて言いますが、フランス料理も全然負けてないじゃないと思いました。それだけに、こちらが勝手に期待した料理対決があったら良かったのにと思ったのですが、実際はフランス料理らしくお上品な仕上がりになってました。

あと、主人公のドダンの背景とか、前述のユーラシア皇太子とは何者なのかと言ったことが全然描かれておらず、その辺はもう少し解説してくれても良かったんじゃないかなと感じました。ドダンについては、公式サイトにもチラシにも「美食家」としか書かれておらず、職業や出自などについては全く分からず仕舞い。四六時中料理のことばかり気にして生活していられるんだから、きっと大地主とか貴族の末裔の大金持ちとかの類いなんだと思われたけど、実際どうなんでしょうね?

ユーラシア皇太子に至っては、一体ホントの皇太子なのか、通称なのか、それすらも不明。1880年代が舞台らしいので、既にフランスは共和制に転じており、ブルボン王朝もナポレオン皇帝もいない時代なので、ホントの皇太子だとすればフランス以外の国の皇太子ということになるものの、そんなVIPがずっとフランスに住んでていいのかという疑問も。

いずれにしても、ドダンとウージェニーの恋物語と料理以外は、実に謎多きお話でした。

俳優陣ですが、ドダンとウージェニーを演じた主役の2人は、実に味わい深い演技をしており、非常に良かったです。また、2人の下で料理人を目指すことになるポーリーヌという少女を演じたボニー・シャニョー・ラボワールは、アニャ・テイラー=ジョイの少女時代を想起させる美少女で、将来期待が持てそうでした。

そんな訳で、展開的には期待外れでしたが、料理を作る場面の臨場感と色彩が抜群に良かったので、評価は★3.5とします。

そうそう、私はランチを取ってから観に行きましたが、映画を観てから食事をした方が、腹が減っていてより美味しくなりそうです。

鶏