劇場公開日 2024年7月19日

「ネオリアリズモの墓泥棒」墓泥棒と失われた女神 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ネオリアリズモの墓泥棒

2024年7月27日
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アリーチェ・ロルヴァケルが本作を製作するにあたり、以下の5作品からインスピレーションを得たことを公表している。元ネタ探しという、シネフィルの皆さんの手間というか楽しみをまんまと省いてくれたわけだ。アリーチェ曰く『夏を行く人々』『幸福なラザロ』に続く3部作として本作を位置付けしているらしく、「過去から現代へのつながり」をテーマにしているという。

・ロッセリーニ『イタリア旅行』(53)
・フェリーニ『フェリーニのローマ』(72)
・アニエス・ヴァルダ『冬の旅』(85)
・パゾリーニ『アッカトーネ』 (61)
・マルチェロ・フォンダート
『サンド・バギー ドカンと3発』(75)

鑑賞済みの上記2作品『イタリア旅行』『冬の旅』と本作との〝つながり〟についてまず述べさせていただく。本作にも顔を出しているイザベル・ロッセリーニの母親イングリッド・バーグマンが離婚秒読み夫婦の奥様役で登場、イタリアの名所旧跡を訪ねるシーンで案内係から〝首のない女神像〟を見せられいたく動揺する。

ヴァルダの最高傑作と呼ばれる『冬の旅』は、浮浪者の娘が自由を求め過ぎたあまり孤独死してしまう救いのないお話。アメリカヒッピー文化の影響を受け過ぎたフランス女子の悲劇と云ってもよいだろう。本作の古代エトルリア人の墓を探し求めるダウジングの達人教授アーサー(ジョシュ・オコナー)の泥棒仲間がまさにそれ。真面目に働くと寿命が縮まるとマジに信じている共産主義的怠け者たちなのである。

なぜアリーチェ・ロルヴァケルは、本作において過去作へのオマージュを我々にこんなにも多く並べて見せたのであろう。『TAR』などの“映画についての映画”である場合用いられやすい手法なのだが、この女流監督の場合はちょいとユニークだ。ネオリアリズモ映画監督の末裔として評されるアリーチェだけに、イタリアやフランスの巨匠たちに世代を超えて教えられた部分が今まで多々あったのではなかろうか。

フェリーニと比較されることにほとほと嫌気がさしているソレンティーノなんかとは違って、アリーチェの場合それをむしろ肯定的に受け取っている。つまり〝ネオリアズモの墓泥棒〟であることを自覚して映画を撮り続けている映画監督さんのような気がするのだ。マジックリアリズモとか評されることが多い監督さんではあるけれど、この人の35mmや16mmフィルムに拘った映像を見せられると古いイタリア映画の温もりが確かに感じられるのだ。

失踪した奥さまのことが忘れられず、古代エトルリア人の墓をまるで取り憑かれたように探し求めるアーサー。最後に掘り当てた(アリーチェの実姉アルバにそっくり⁉️な)女神像の首をアーサーが誰の目にも触れさようとしなかったのは、ロルヴァケル姉妹がお金や名声のためだけに映画に携わっているわけではないことを宣言したシーンとはいえないだろうか。この姉妹が運命の赤い糸に引き寄せられるように導かれた場所が、多分この映画業界(chimera≒cinema)だったのだろう。

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かなり悪いオヤジ