「絵面に反してロマンチック!」墓泥棒と失われた女神 ほりもぐさんの映画レビュー(感想・評価)
絵面に反してロマンチック!
墓泥棒(逃げ遅れ)で服役していた刑務所帰りのアーサー。何度も夢に見るのは亡くなった恋人ベニアミーナの姿です。
前半とてもスローペースでなかなか物語が動かず、一体どうなっていくのか!?と少しハラハラしました。
しかし、とある墓で女神を発掘してからは、凄い推進力でラストまで持っていかれて、実に不思議な映画だなぁと感心しました。
あまりに貧しいアーサーの暮らし。泥棒仲間たちも貧しく、埋葬品の買い手は欲深く、皆、金と欲に目がくらんでいるのですが、それはミスリードであって、本筋は純粋なラブストーリー。
埋葬品をダウジングによって見つけるアーサーは、後になって気づいたのですが、恋人の姿を探し求めていたのです。
現実世界で盗掘を戒めてくれた女性と、幸せになる可能性もありましたが、彼はやめられませんでした。
それは失った彼女の幻想を追い求めることがやめられなかったからなのです。
そっと出ていくアーサーに気づきながらも、黙って見送るイタリアの姿が、とても切ないです。
彼女にはアーサーに好きな女性がいること、自分はその代わりになれないことを、感じ取っていたのでしょう。
それまで、アーサーが盗掘する目的が、お金のためなのか、仲間との友情のためなのか、考古学的興味なのか、いまひとつはかりかねていたのですが、そうか…ベニアミーナを探していたのか!とはっきりわかりました。
なんてロマンチックなんだろうとキュンキュンしました。
また、墓を暴いて破壊していく男性たちに対して、コミュニティを作って生活を作り上げていく女性たちの姿も対比として描かれていたのが印象的でした。
最後、アーサーは土に埋もれてしまったのだろうと私は思っています。
しかし、夢の中の彼女と再会して、最高に幸せそうなアーサーの姿が見られ、ほろ苦いながらも、素敵なラストシーンでした。
アーサー役のジョシュ・オコナーがとにかく素晴らしいです。寂しげな表情、ヨレヨレのくたびれ具合、どういう経緯でイギリスから来たのかよくわからないという謎感、木の棒でダウジングしたり、突然卒倒したり、不思議すぎる人物なのですが、とても魅力的に演じていました。
最近では『チャレンジャーズ』でも好演されていたので、他の作品も見てみようと思います。
余談ですが、劇中歌で状況説明するのが面白く、どこかで聞いたことがある曲だなぁ…と気になっていました。
後で思い出してスッキリしたのですが、ハナ肇とクレイジーキャッツの『悲しきわがこころ』のサビでした(笑)