「正しさを揺さぶられて」二つの季節しかない村 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
正しさを揺さぶられて
2023年。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督。トルコ東部の寒村に小学校教師として赴任している主人公は退屈な日々を過ごしている。組織批判、田舎批判を繰り広げながら具体的な行動は起こさずひたすら転勤を待つ日々。そんな中、目をかけていた少女から告発されてあやうく失職する目に遭ったり、ルームメイトのなかのよい男性教師とともに近くの女性教師とつるんで出歩くようになって関係が変化したり。「どう生きるべきか」を喧嘩腰で議論し合う人々と、その中心で信じていた正しさを揺さぶられる知識人である主人公の苦悩を描いている。
トルコやイランの映画を見ていると感じる「なんかわかる」感じがこの作品にもある。非西欧圏で生きる知識人の葛藤の感覚。しかし、それとは別に、子供または女性によって自らの正当性の感覚を問い直されていく姿も描かれている。理想と現実のギャップに苦しんでいればいいのではなく、そのギャップ自体が男の身勝手な妄想だろうと突き付けられる。突き付けられるけれどもそれはもうどうしようもない。最後に主人公はこの閉塞的な田舎から転勤していくのだが、反省して生まれ変わったり、希望を見出したりということはなく、ただただ季節が移り変わっていくだけだ。
途中で挿入される現地の風景とそこに暮らしていると思われる人々の写真が異様に生々しい。
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