「人間だけでなく、犬に注目」落下の解剖学 悶さんの映画レビュー(感想・評価)
人間だけでなく、犬に注目
【鑑賞のきっかけ】
本作品は、カンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞を受賞していることもあり、劇場鑑賞を予定していたが、機会を逃してしまいました。
このたび、動画配信が始まったので、早速、鑑賞してみました。
【率直な感想】
<「ミステリ」ではなく、「人間ドラマ」>
本作品は、フランスの雪の積もった山奥の山荘に、夫と妻(サンドラ)とひとり息子(ダニエル)という三人家族が暮らしているという設定です。
ある日、11歳のダニエルが飼い犬と散歩に出かけ、戻ってきてみると、父が山荘から転落して倒れていて、既に絶命していました。
やがて、警察の捜査の結果、妻のサンドラは殺人容疑で刑事訴追を受け、裁判が開かれることに。
…と、記載してくると、シチュエーションは、完全に「ミステリ」、しかも、ジャンル的には、「法廷サスペンス」なのですが、本作品は、そうではありません。
宣伝用のポスターには、「これは、事故か、自殺か、殺人か」とあるけれど、どれが真相かを追求する作品ではありません。
本作品で描こうとしているのは、「人間ドラマ」です。
夫婦の人間関係はいかなるものであったのか、視覚障害のある少年ダニエルに対して、父と母はどのように接していたのか。
これらが、2時間半という長尺の物語の中で、じっくりと描かれていきます。
<2番目の注目点があります>
多くの映画作品において、冒頭のシーンが後の展開を考えた時、非常に重要だったりします。
本作品は、それに該当します。
本編が開始した時、カメラは階段を下から、映しています。
この階段から、ポンポンとボールが「落下」してきます。
階段の下まで落ちてきたボールを、駆け下りてきた「犬」が咥えて、再び、階段を上っていきます。
つまり、本作品で最初に登場するのは、「人間」ではなく、「犬」です。
「人間ドラマ」重視なのに、「犬」が最初に登場。
本作品は、カンヌ国際映画祭において、パルム・ドール賞のほかに、「パルム・ドック賞」を受賞しています。
私も、今回初めて知ったのですが、優れた演技をした「犬」に対して与えられる賞だそうです。
そうした視点で捉えてみると、この「犬」が物語の中で、重要な役割を果たしていることがよく分かります。
【全体評価】
人間の演技に注目するとともに、「犬」の演技にも大注目という本作品は、強く胸に刻まれる、期待を裏切られることのない秀作であると感じています。