劇場公開日 2024年2月23日

「真実は観る側に委ねられる」落下の解剖学 リオさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0真実は観る側に委ねられる

2024年2月24日
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鑑賞方法:映画館

フランスの山間部に住むある家族に起こる事件と、その事件の裁判を介して、この家族の関係性を浮き彫りにする作品。

冒頭、爆音で鳴り響くラテン音楽(恐らくクンビア?)とフランスの山々との不思議なコントラストが印象的だった。因みに個人的にはこの音楽は好みだったが(夫とは趣味が合う!)、作中の奥さんには嫌がらせと受け取られるほど大変苦痛だったようだ。

音楽が流れている間、弱視の息子は盲導犬と一緒に雪溶けの山道へ散歩に出かけるが、帰ってみると父親が血を流して倒れている。この、散歩帰りの息子の足下から盲導犬が遺体へ駆け寄るまでのパンが、何とも素晴らしいシーンだった。

本作については、最初は典型的な謎解きミステリーと認識されるよう、ある種確信犯的に作り手にミスリードされる構成となっていると感じた。(雪山→死体→アリバイ工作→謎解き→ドーパミンじゅわ〜のお決まりパターンを想像してしまったが、それも観る側の先入観だと思い知らされる。因みに私は、映画と音楽さへあれば、アスピリンもエスシタロプラムも不要な人間です…)

中盤から後半に掛けては、法廷シーンが続くが、ある音声証拠をきっかけに、その前後でこの夫婦に対する見え方が大きく変わってしまう。

エンディングで判決が出るが、真相は観る側に委ねられるといった構成で、モヤっとしたまま終了。

個人的感想は、真相は判決とは異なると思う。途中、弱視の息子は当初の証言を変えるが、視覚が奪われた人間は、逆に聴覚や触覚、その他の感覚が研ぎ澄まされるというが、息子の当初の発言は「勘違い」では無かったと思う。

この作品は、謎解きを目的としているのではなく、家族の関係性、特に夫婦関係と母子関係を描いていると思う。それから、真相が不明な事柄は、社会のシステムとして裁判により裁かれるが、判決は必ずしも真実と同じとは限らない様を描いていると感じた。ただ、作品の構成は特徴的だけど、テーマ性としては特に目新しいものでは無く、描かれ方も目を見張るような印象的な表現は無かった。結果、個人的にはそこまで惹き込まれる内容では無かった。

本作の比較対象として思い出したのは、昨年に見た「ザリガニの鳴くところ」、それから、昨年のカンヌ映画祭の審査員長も務めたリューベン・オストルンド監督の「フレンチアルプスで起きたこと」。前者は法廷ものとして、後者は家族における夫や父のあり方をブラックジョーク満載で自虐的に描いているが、テーマ性では本作に通じると思う。

追記:
夫が爆音で掛けていた音楽だが、調べてみるとドイツのスチールパン・ファンクバンド Bacao Rhythm & Steel Band(日本でいうところのリトルテンポみたいなバンドかな?) がラッパー50cent の PIMPという楽曲をカバーした音源のようですね(法廷でも言及されていた気がするが、理解できていなかったw)。てっきりクンビアか何かかと思ったのだけど、何れにせよ嫌いじゃない音楽だったからさっそくAmazon music でダウンロードしてしまった。爆音で流さないようにだけ気を付けたい。。。

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リオ