劇場公開日 2024年2月23日

「愛犬スヌープの演技力に驚愕」落下の解剖学 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5愛犬スヌープの演技力に驚愕

2024年2月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2023年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、2024年の米国アカデミー賞でも作品賞や監督賞、主演女優賞などにノミネートされる本作が、ようやく日本でも公開となったので早速観に行きました。

フランス人の夫・サミュエルとドイツ人の妻・サンドラ、そして11歳の視覚障害のある息子・ダニエルの3人家族にまつわるお話でした。フランスの山奥にある自宅の屋根裏部屋のバルコニーから転落したサミュエルを発見したのはダニエル。母のサンドラを呼び、救急車も駆けつけるが既にサミュエルは亡くなっている。そんなサミュエルの死因は自殺だったのか、はたまたサンドラによる殺人だったのか?殺人罪で起訴されたサンドラの裁判を巡る”法廷ミステリー”の鍵を握るのは息子のダニエルということで、非常にスリリングな展開でした。

”法廷ミステリー”とカッコつきで表現したように、本作の本質は、事の真相はさておき、とにかく裁判に勝つことを目的とした現実の裁判制度に沿った形で話が進められており、最終的に真犯人が暴かれてカタルシスが得られるようなミステリー作品ではありませんでした。しかしながらというべきか、だからこそというべきか、名探偵が難事件をスパッと解決するミステリーでは味わえないリアリティを感じることが出来た作品でした。

面白かったのは、そうした”法廷ミステリー”の流れで考えると、新たな証拠が出てくるたびにサンドラの証言は二転三転し、さらには過去の不倫の話まで蒸し返されることになり、徐々に彼女は追い詰められて行きますが、それを救ったのが息子ダニエルの会心の一撃だったこと。事件当初は父が不慮の死を前にして悲しみに暮れていた彼が、裁判が進むにつれて母にとって不利な状況になる中、国から派遣された監視役の女性の助言を得て勇気付けられ、結審間近に証言台に立ち、裁判長に向かって堂々と自分の意見を述べるに至る。「ハッキリとした証拠がない場合、自分がどう思うか決断しなければならない」と。それを聞いた裁判長は、子供ながら裁判の現実を突いたセリフを発するダニエルを前に、不意に目を覚まされたような衝撃を受けた表情をしていたのが非常に印象的でした。
勿論本作で扱ったのは一審判決までであり、その後上級審に裁判が縺れたのかも分かりませんでしたが、決定的な証拠が存在しない以上、仮に上級審で争われても、ダニエルが母をサポートする限りは同じ結果になったのではないかと思われました。

さて物語の内容はこれくらいに、本作の役者の方に目を向けたいのですが、何と言っても驚くべきはペットの愛犬スヌープでした。視覚障害のあるダニエルに常に付き添うスヌープでしたが、単に愛くるしいペット役を引き受けただけでなく、ダニエルが事の真相を探るためにアスピリンを大量に飲ませ、昏睡状態に陥ってしまいます。これって動物虐待じゃないのと心配になりましたが、町山智浩さんがラジオで解説したところによると、全て演技なんだそうです。犬が昏睡状態に陥り、さらには塩水を飲まされて薬を吐き出して正気に戻る演技をするなんて、驚きしかありません。スヌープはこの演技でカンヌ国際映画祭のパルム・ドッグ賞を受賞したそうですが、まさに納得の演技でした。
人間様の方については、やはり主役のザンドラ・ヒュラーが良かったし、彼女を法廷で追い詰めた検事役のアントワーヌ・レナルツも本物さながらでした。

そんな訳で、本作の評価は★4.5とします。

鶏
トミーさんのコメント
2024年4月5日

共感ありがとうございます。
観ていてモヤモヤ、居心地の悪さを感じた作品でした。しどろもどろになる母、勝訴後飲みに行った下りちょっと見てられない。息子も証言はちゃんと整理されていて、健気でしたが結局主観的。イヌは今後頼りにする相手を変える様に添い寝してきて、目は閉じず前を見ている。スヌープに演技指導したのはドッグマンか? という位の名演でしたね。

トミー
ゆ~きちさんのコメント
2024年3月21日

共感ありがとうございました。

あの作品見たら、誰もがスヌープの演技に度肝を抜きますよね。

ゆ~きち