劇場公開日 2025年3月14日

「俳優と本人のダブルキャストという演出の妙」Four Daughters フォー・ドーターズ 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0俳優と本人のダブルキャストという演出の妙

2025年3月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

チュニジアでイスラム国に身を投じた長女・ラフマと次女・ゴフランを持つ母親・オルファと三女・エア、四女・テイシールの”ドキュメンタリー”でした。というか、実際に母親や三女、四女らにインタビューするシーンのほか、過去の出来事を再現する再現ビデオ、さらにはその再現ビデオを撮影するシーンを撮影しているメイキング物でもあり、”Making of Four Daughters”というべきものでした。

「イスラム国に身を投じた長女と次女」というサワリを聞くと、イスラム教という狂信的な宗教のために家族が壊されたかのような印象を受けましたが、全編を観ると必ずしも宗教が主役になっている訳でななく、彼女たちの祖国チュニジアの大混乱こそが、彼女たち家族の分断を生んだ原因であったという結論に達しました。

2010年から2011年までの間で勃発したチュニジアのジャスミン革命では、23年間続いたベン・アリー政権が倒れ、その後ヨルダン、エジプト、バーレーン、リビアなどの周辺国に革命の火の手が広がり、”アラブの春”と称される動きに繋がって行きました。このベン・アリー政権は、イスラム組織や共産党を弾圧する一方、新自由主義的な政策を実施して一定の経済成長を達成したいわゆる開発独裁の典型みたいな政権でした。そのため、ベン・アリー政権が倒れたことで、従来弾圧されていたイスラム組織が力を得て、その波に長女や次女が飲み込まれていったというところなのだというのが私の見立てです。

また、腐敗した政治や、思想、信条、信教の自由を認めない体制が長年続いたことで、失業率が高く、母親が海外に出稼ぎに行かなければ一家を養えないと言ったこと、また男尊女卑の風潮が酷く、特に若い女性に鬱屈した不満が溜まりやすかったことなども、結果的に長女と次女がエクストリームな過激宗教活動に身を投じてしまうことになる要因だったように思われました。

さて作品の背景は以上の通りでしたが、本作を映画として観ると、非常に面白い趣向がありました。再現シーンにおける母親のオルファの役を、役者のヘンド・サブリが演じていたとともに、オルファ本人も演じていたことです。イスラム国に身を投じ、現在リビアで投獄されているらしい長女と次女は役者が演じており、また三女や四女は本人が演じていることを考えると、母親は本人が演じるのが普通なのですが、敢えて役者を起用しているところが面白いところ。なんでそんなことをするのかと思えば、実は再現シーンの前後で交わされる役者と本人たちとの会話を収めるのが目的だったのだろうと推測され、そういう演出が中々興味深いものでした。

そして再現シーンを演じる彼女たちが、時に長女たちがいた頃を思い出して感情が溢れて演技が中断するところなど、彼女たちの感情が伝わってくる印象的な場面でした。長女たちは懲役20年以上の罪に問われているようで、家族が再会できるのかは非常に微妙なところですが、彼女たちの家族が救われますように、心から祈りたいと思います。

そんな訳で、本作の評価は★4.2とします。

鶏