劇場公開日 2023年12月15日

「静けさの中に灯る、孤独なふたりのささやかな愛」枯れ葉(2023) シモーニャさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 静けさの中に灯る、孤独なふたりのささやかな愛

2025年12月28日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

幸せ

癒される

ヘルシンキを舞台に、孤独を抱えて生きる男女が“人生で最初で最後のかけがえのないパートナー”を見つけようとする、静かで優しいラブストーリーである。
主人公を演じるユッシ・バタネンとアルマ・ポウスティは、どちらも派手さとは無縁の存在感だが、その控えめな佇まいこそが作品の魅力を支えている。
いわゆる“通好み”の映画でありながら、コーエン兄弟のようなマニアックな感覚には寄らず、物語はあくまでリアリティを保ちながら、どこかファンタジーのような柔らかさを漂わせる。
この絶妙なバランスが、カウリスマキ作品ならではの味わいだ。
ふたりの関係は、少し変わっていて、もどかしく、すれ違いばかり。
しかし、その不器用さが観る者の心を掴む。
自分でも気づかないうちに、ふたりのぎこちない恋に感情移入し、まるで映画の中に入り込んで一緒に物語を歩いているような感覚になる。
エンドロールで流れる“枯れ葉”が静かに心身に染み渡り、作品全体の余韻をさらに深めてくれる。

描かれるのは、中年の労働者たちのささやかな愛の芽生えだ。
若くないふたりが、若い頃には気づけなかった“人との違いを理解し、共に生きる決意”を静かに育てていく姿は、どこか自分自身の人生とも重なり、応援したくなるような愛おしさがある。
つつましく、少し個性的で、しかし誠実に愛情を深めていくふたりの姿は、淡々とした日常の中に確かな温度を宿している。
カウリスマキ監督は、セリフも演技もエンターテインメント的な派手さを徹底して排除している。
作り込みすぎず、ドラマチックな演出を避け、あえて“地味さ”を選ぶことで、逆に作品の温かさが際立つ。
この独特の価値観こそが、映画全体を静かに、しかし力強く牽引している。

そして、本作にはもうひとつ重要なポイントがある。
アンサの部屋のラジオから流れる、ロシアとウクライナの戦争のニュースだ。
映像の雰囲気はどこか過去の時代を思わせるのに、ラジオだけが現代を告げる。
このギャップは、カウリスマキ監督の“戦争への批判”であり、
「いつの時代も、同じような現実が繰り返されている」
という静かな怒りを、ラジオの音声だけで表現している。
作品全体の中で唯一、監督の思想が直接的に響く瞬間だ。

『枯れ葉』は、派手さとは無縁だが、
孤独なふたりが出会い、互いを理解し、静かに寄り添うことの尊さを、これ以上ないほど誠実に描いた秀作である。
淡々とした日常の中に、深い愛情と温かさが確かに息づいている。

シモーニャ
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