「中年男女の恋愛にしみじみ」枯れ葉 ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
中年男女の恋愛にしみじみ
極限まで削ぎ落された語り口で描かれる中年男女の恋愛談にしみじみとした味わいが感じられた。
製作、監督、脚本はフィンランドの名匠アキ・カウリスマキ。いかにも氏らしいオフビートなトーンが徹底されており、思わずクスリとさせるようなユーモアが要所に散りばめられていて最後まで面白く観ることが出来た。
ただ、終盤の展開はいささか”作りすぎ”という気がしないでもない。いわゆる普通のエンタメ作品ならいざ知らず、個人的にはカウリスマキの映画にここまでのドラマチックさを求めていないというのもあり、少し意外に思えた。過去作と比較しても、今回はかなり明快な作りに傾倒しているような気がした。
もう一つ、本作には重要なポイントがあるように思った。それは、アンサの部屋のラジオから流れてくるロシアとウクライナの戦争のニュースである。直接ドラマに関係してくるわけではないが、度々このニュースが流れることから、カウリスマキはこの戦争に対して思う所があったのだろう。彼はこれまで戦争という要素を自作の中に余り取り入れてこなかったので、今回はそこも意外であった。
それにしても、無表情な男と女、タバコ、パブ、音楽、映画、犬等。本作は”カウリスマキ印”と呼べるような物が存分に詰め込まれた作品となっている。前作「希望のかなた」を最後に監督引退宣言をしたが、それを撤回してまで撮り上げた本作は、まさしくカウリスマキにしか作れない独特な世界観が広がっている。その演出手腕はもはや伝統芸の域に達していると言っても過言ではないだろう。
特に、アンサとホラッパがカラオケバーで出会うシーンには唸らされてしまう。言葉を交わさず互いに投げかける眼差しだけで二人の距離感が見事に表現されている。
他にも、アンサの電話番号が書かれたメモをホラッパが落としてしまう場面や、それによって連絡が取れなくなってしまった二人が映画館の前でニアミスを繰り返す場面等。いかにも映画的醍醐味に溢れたシーンとなっている。メモの紙やタバコの吸い殻といった小道具の使い方も大変上手い。
劇中に登場する映画や音楽も面白い。
ジム・ジャームッシュ監督のゾンビ映画「デッド・ドント・ダイ」を引用して茶化すあたりは苦笑してしまった。他に、ゴダールの「気狂いピエロ」、デヴィッド・リーンの「逢びき」、ルキノ・ヴィスコンティ&アラン・ドロンの「若者のすべて」のポスターが画面上では確認できた。
音楽もカウリスマキ映画の大きな要素と言って良いだろう。セリフではなく楽曲の歌詞でアンサとホラッパの心情や置かれている状況が饒舌に表現されており、この辺りの選曲センスは流石である。
尚、カウリスマキは小津安二郎を敬愛していることを公言しており親日家でもある。自作の中に度々日本の曲を起用しているが、今回も前作で流れていた「竹田の子守唄」がラジオでかかっていた。よほどこの曲が好きなのかもしれない。