「選曲の妙を楽しむ異色のラブコメディ」枯れ葉 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
選曲の妙を楽しむ異色のラブコメディ
本作はフィンランド映画でした。フィンランド映画と言うと、今年3月に観た「コンパートメント NO.6」がありましたが、あちらはフィンランド人がロシアに留学した際のお話であり、舞台がロシアだった上、時代設定もソビエト崩壊直後の1990年代だったのに対して、こちらの舞台は現代のフィンランドでした。そういう意味では、現代のフィンランドを舞台にした映画としては初めて観た作品となりました。ただ画面の感じが現代調ではなく、いかにも1970年代と言った創りになっていた上、登場人物たちの自宅や職場、酒場の様子が前時代的な雰囲気でした。唯一本作が現代を舞台にしていることが認識できたのは、旧式のラジオから流れるニュースで、ロシアのウクライナ侵攻を伝えていたことと、スマートフォンを使っていたことくらいでしょうか。
そんな現代フィンランドを舞台にした作品でしたが、序盤から中盤にかけて、登場人物たちがとにかく無表情で、喋り方も平板な感じであり、とにかく無機質な創りになっていてちょっと驚きました。主人公のアンサは、最低賃金でスーパーマーケットで働いており、もう一人の主人公であるホラッパも金属工場で働いていて、言ってみれば低所得者の2人。しかも交友関係も限られている感じで、非常に暗い雰囲気で滅入ってしまう内容だったのですが、登場人物同士のやり取りや行動が実は結構滑稽で、本作がコメディ要素たっぷりのラブストーリーだったんだと気付いてからは、笑えるようになりました。
また、ラジオだったりカラオケだったりバンドの演奏だったりと、場面場面に挿入される多彩な音楽が、主人公たちの心情を見事に表した曲で、その点も感心させられました。何せ「竹田の子守唄」からチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」まで、洋の東西を問わない選曲は見事。特に本作の主題歌と言っていい「Syntynyt suruun ja puettu pettymyksin(悲しみに生まれ、失望を身にまとう)」は出色の出来。フィンランド語なので今聞いても内容はさっぱりですが(映画ではちゃんと字幕が出てました)、悲しい感じでありながらもアップテンポで未来に希望が繋がる感じの曲で、まさに本作に嵌る唄でした。
最終盤になり、無表情だったアンサの顔にも笑みが見られるようになり、とっても幸せな感じで映画館を後にすることが出来る作品でした。
そんな訳で本作の評価は★4とします。