「引退を撤回してまで言いたいことがあったカウリスマキ。」枯れ葉 jollyjokerさんの映画レビュー(感想・評価)
引退を撤回してまで言いたいことがあったカウリスマキ。
孤独な女が一人家ですることはラジオを聴くこと。しかしそのラジオから何度も流れてくるウクロシアによるウクライナ侵攻のニュースに、却って気が重くなるのだった。
女は思わぬ解雇によって職を転々とし、男は酒が手放せない。そんな2人のすれ違いを見ていくわけだが、いつものカウリスマキ節が炸裂する。昭和歌謡風のカラオケ。竹田の子守歌、シューベルトありチャイコフスキーあり!
2人が映画を見に行くシーンでは、ジム・ジャームッシュ作品が現れるという大サービスがあるし、映画館の前のポスターも『逢引き』とかしびれます!
そして今作でも犬がいい仕事をしている。
主演のアルマ・ポウスティはカティ・オウティネンを彷彿とさせる、ぶっきらぼうなのに可愛げがあり好演。Netflixで配信中の『一日半』でも、『トーベ』でもその魅力は十分に発揮されていた。
ユーロライブでの先行上映会で、主演のアルマ・ポウスティと、カウリスマキの大ファンだという松重豊が登壇し、トークショーがあった。アルマ・ポウスティはハリウッド女優とは対極的な雰囲気で、終始親しみやすく可愛げのある受け答えをしていて、松重豊によるファンならではの質問も良かった。
松重:カウリスマキは現場でどのような演出をしているのか。
アルマ:台本は良く読んでくるように、ただし、練習はするな。細かく準備をしてから本番に入る。アドリブはなし。小道具の位置等監督自らチェックし、カメラを覗いたらアクション。カット後にモニタを確認することなく、一発勝負の緊張感で進める昔ながらのスタイルでほぼワンテイク。何度もリハーサルをするのではなく本作は撮影から編集まで二か月で完成しすぐにカンヌに出品した。
松重:台本はどのくらいの長さなのか。
アルマ:生涯で一番短い台本(笑)(セリフは最小限だが、詳細に記してあった)。
などなど面白い話も聞けた。
奇しくも当日はフィンランド106回目の独立記念日ということで、ヒューマニズムに溢れたカウリスマキ作品を堪能できた。