「観客すら信じられない人間の語る「世界平和」」関心領域 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
観客すら信じられない人間の語る「世界平和」
映像領域と音声領域で全く真逆の素材を流し込むことでその合成物として立ち上がる映画にある種の不協和音を生じさせよう、という安直なアイデアだけで1時間40分の長尺を乗り切ろうという傲慢さに辟易した。
平和な日常の映像の中に虐殺される人々の阿鼻叫喚が重なった瞬間に本作の目的はほぼ達成されているにもかかわらず、物語は無意味に引き延ばされ続ける。「悪は凡庸である」みたいな達観に浸るのは製作者たちの勝手だが、共感できない悪人を物語の主軸に据えるのなら、彼らを魅力的に描く以外に物語の求心力を組成する方法はないのではないか。
いや、百歩譲って、製作者たちが「この映画の物語は面白い」と思っているのならまだマシだ。本作が最悪なのは、彼らが物語のつまらなさに自覚的であるという点だ。しかもそこを敢えて露悪的に誇張することすら避け、つまらなさと実験性を意図的に混同させることで卑怯な誤魔化しを図っている。
その誤魔化し方すら面白味に欠けるのだから驚きだ。音声のネガティブさが映像を侵食するという越境表現や現代パートの挿入といった小手先のテクニックに誰が騙されるというのか。受け手を舐めるのもいい加減にしてほしい。
映画を観に来る人々すら信じることができない奴らが願う「世界平和」にいったい何の意味があるというのか。ホロコーストに対して愚直にNOを突きつけた『ライフ・イズ・ビューティフル』や『縞模様のパジャマの少年』のほうがよっぽど反戦映画として優れている。
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