「意外にドラマ性のある、現在に反転して反復する、無関心領域の重要映画」関心領域 komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
意外にドラマ性のある、現在に反転して反復する、無関心領域の重要映画
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
映画を観始めた時は、アウシュビッツ強制収容所のルドルフ・ヘス所長(ルクリスティアン・フリーデルさん)家族の物語であり、題材的にこの家族に感情移入させない演出をしているように感じられ、ドラマ性を極端に省いた映画に最後までなるのではと思われました。
しかし意外にも、(背景に流れる収容所の銃声などの音以外に)所長とその子供が川遊びしている時に収容所で虐殺されたユダヤ人々の遺骨が流れて来たり、白黒の夜の場面でポーランド人の少女が夜の間にユダヤ人たちの昼間の労働場所にリンゴを配って歩いたり、所長家族の母親が収容所で何が行われているか察して屋敷を知らない間に離れたり、所長の妻ヘートヴィヒ・ヘス(サンドラ・ヒュラーさん)が収容所での虐殺を無視し続け田舎暮らしを必要以上に肯定したりなど、ギョッとする描写含めて、単調にならないドラマ性の描写が少なくない映画になっていると思われました。
またこの映画は、実際のアウシュビッツ強制収容所に隣接する家で撮影がされていて、その画面に迫る空気感もこの映画を決定的に恐ろしい映画にしていると思われました。
映画の題材自体は、余りに酷いナチス・ヒトラーによるユダヤ人虐殺であり、誰もが知るアウシュビッツ強制収容所に関する話ですが、虐殺の場面を直接は一切見せず、逆に淡々とした基調でその悲惨さを表現し切っている重要な作品だと思われました。
ただこの表現方法は正解でこの表現方法では最高点をたたき出していると思われながら、一方で映画としての傑作になるにはかなり難しい表現方法だとも思われ、今回の点数となりました。
ナチス・ヒトラーによってなされたユダヤ人の虐殺は、映画で描かれたとおりに当時の一般の多くの人々には無関心の領域だったと思われます。
そして、今作のユダヤ系のイギリス人であるジョナサン・グレイザー監督は、アメリカ・アカデミー賞の国際長編映画賞の受賞スピーチで、現在のイスラエルのガザの攻撃によるパレスチナ人々の犠牲を、ハマスによるテロの犠牲と共に触れています。
この映画『関心領域』は、当時のユダヤ人々の立場とは現在に反転する形で、ガザ地区やヨルダン川西岸地区にイスラエルのユダヤ人々に押し込められたパレスチナ人々への世界の「無関心領域」として、反復して照射されています。
この映画は、当時と現在の悲劇を、ねじれながら私達に見つめさせる、現在にとって重要な重い作品であるのは間違いないと思われています。