「ヘス夫人の姿が映し出すもの」関心領域 Beateさんの映画レビュー(感想・評価)
ヘス夫人の姿が映し出すもの
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アウシュビッツに隣接するヘス所長宅は、鳥のさえずりが聞こえ、豊かな自然に恵まれ、個人の平和な生活を享受している家族がいる。そんな姿がドキュメンタリーのように描かれている。しかし、ヘスの妻へ―トヴィッヒが鏡の前で試着する毛皮のコートは、隣の収容所で虐殺されたユダヤ人の着ていたものであり、そのポケットに入っていた口紅は、そのコートの持ち主のものである。「無邪気にも」その毛皮を試着し、口紅を唇に塗る彼女の姿は、
今、パレスチナのガザで起きていること、すなわちイスラエル軍によるガザ攻撃で虐殺されたパレスチナ人の遺品を我がものにして笑い合うイスラエル兵と重なる。ガザで、人間が、子供が、女性が、毎日毎日、大量に虐殺され、飢餓死を強いられている。そのことを自分とは関係のない遠い所で起こっていることとして無関心に放置することは、まさにヘス夫人の姿ではないか。この映画を観てから、私自身が何の悪気もなくやっている日常の行動、勤めに行くための洋服を選んだり、お化粧をしたりといった行動1つ1つが、ヘス夫人のそれと重なり、グロテスクに思えてならなくなった。そして問いを突き付けられる。今、ガザで起きているイスラエルのパレスチナ人の虐殺に対し、言葉や行動を持って抗議の意思を表さない限り、ヘス夫人のやっていることと同じではないかと。グレイザー監督が、「関心領域」アカデミー賞授賞式のスピーチで、ガザでイスラエルの攻撃に苦しむパレスチナ人への注意喚起を述べたことを忘れてはならないと思う。
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