「音響で恐怖と異常性を描き出す見事な作品」関心領域 ひでちゃぴんさんの映画レビュー(感想・評価)
音響で恐怖と異常性を描き出す見事な作品
冒頭の真っ暗な状態で鳴り響く不穏な音。
まさに音の重要性を強調しているようなオープニングでした。
そこから場面が変わって、実に牧歌的な家族の姿が描かれるのですが、
徐々に違和感や異常性を観客は気づくことになります。
まずもってアウシュヴィッツに収容されているユダヤ人の持ち物と思しき物品を物色したり、
(ザンドラ・ヒュラー演じるヘートヴィヒは試着などもやっている)
高い壁の向こうにそびえる収容所から聞こえる銃声や悲鳴、そしてモクモクと煙が立ち上る煙突。
間違いなく壁の向こうでは残酷に人が殺されているわけで、
そこに一切の関心を持たないヘス一家。この一家は幸福を標榜しているんですね。
ただ、ヘートヴィヒのお母さんが泊まりにきて、逃げるように帰ったりする描写で
やっぱり普通の感覚だと、絶対いたくない場所だということがわかりますし、そりゃそうだろうと思います。
夫ルドルフの転勤が決まったと知ったときの妻、ヘートヴィヒの反応がもう恐怖でしかなかったです。
ずっとこの地(この家)にとどまりたいと強い意思を持つヘートヴィヒには、もう異常性しか感じられなかったです。
彼女が17歳の頃から夢見た生活が、このアウシュヴィッツの隣の立地での贅沢な生活だったのですね。
普通はとてもまともに暮らせる環境ではないのに・・・。
ラスト近くで、ルドルフが現代のアウシュヴィッツ博物館やガス室の清掃場面を見て、嘔吐する場面があるのですが、
やはり彼も異常を来していたのでしょうね。人間らしさを垣間見た気がしました。
ただ、ヘートヴィヒはモンスターだと思いますし、彼女を演じたザンドラ・ヒュラーの演技はすごすぎますね。
すごい迫力でした。
それにしても夜間にりんごを埋めて歩く少女を暗視カメラで映したシーンは、謎めいていて面白かったです。
善行をしている人が唯一描かれたシーンでした。
ぜひもう1度観たい!久しぶりにリピートしたい映画との出会いでした。