「音楽が怖いっ」関心領域 ぷにゃぷにゃさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽が怖いっ
観終わって、重いものを持たされたような、苦い飲み物を飲まされたような、そんな気分だった。そして、ヘス一家がその後どうなるのか、他にも知りたいことがたくさんあり、しばらくネット検索しまくった。ルドルフが書いた、アウシュビッツ収容所の本も出ていたことを知り、読みたいような、読みたくないような…。戦後、ルドルフは処刑され、一家は散りじりになり、肩身が狭い日々だった。ひどいことをした報いだと、ばっさり言いたい気持ちもあるが、ヘス一家もまた被害者と思えてならない。本当は普通の人間だったのに、勘違いする場が整ってしまったというか。この頃のドイツは、国全体が勘違いしてたのかも。
アカデミー音響賞を取っただけあって、音のデザインが素晴らしい。あの家族にとって、常に聞こえる音は、道路工事くらい日常なのかしらないが、悲鳴や怒号、銃声が常に響くのはつらい。あとガス室と焼却炉の重低音。においも常にあるんじゃないだろうか。列車が近づいてくる音も、なんか煽られる感じがする。この異常な状況を、俳優のせりふやナレーションを一切使わず、音だけで観客に理解させるとは、一本取られた!座布団一枚!
人間は慣れる生き物である…どこかで聞いた名言だが、ルドルフよりヘートヴィヒの方が、この生活に慣れ、執着していたように思う。ルドルフは、自分がいつか弾劾されることを、予想していた。階段で吐き気を催し、立ち止まってこちらを見た時、ふと未来を垣間見たかもしれない。本当は馬が好きで、犬が好きで、ささやかで平凡に暮らしたかった。でも、仕事が嫌だと言えなかった。ヘートヴィヒは、もしかしたら生まれがあまり裕福でなかったのでは。なんとなく、歩き方や食べ方がエレガンスでないような。実はすごいコンプレックスを持っていて、だから女王(あの髪型…)のように支配し、やりたい放題に振る舞える快感が、環境の不快を上回ったのではないだろうか。この夫婦が、もっとお互いに思いやれたら、こんな異常な生活しなくて済んだのにね。
りんごの少女は、最初は絵本の映像かと思ったけど、なんか緊迫してるし、背景がリアルなので、収容所だと気付いた。りんごって、あんなに白く写るほど温度高いのか。すごく危険なことを、よく見つからずにやってたなあ。人間の残虐性を見続けていた中、ここは善性を見られて、救いがあった。あの小さいケースみたいなものは、鑑賞中はわからなかったのだが、検索したらユダヤ人が書いた楽譜だとわかった。ピアノを弾いてたのも、りんごの少女だったのね。この映画、顔のアップが少ないから、人間の区別がつきにくい。ヘス家の娘2人もどっちが姉だか妹だか、全然わからない。りんごの少女も、自然光の下とサーモグラフィーの映像が一致しなくてねー、検索のおかげで理解できたよ。
ナチスのしたことは鬼畜の所業だが、でも他にも似たようなことは、世界のあちこちにある。スペインだって中南米でやったし、アメリカも先住民を圧迫したし、アフリカなんてヨーロッパ各国で蹂躙しまくった。日本だってアイヌと琉球がある。なぜだか歴史は繰り返されてしまう。人類は争いをやめられないのだろうか。そういうことを考えさせられる映画だった。そして、たとえ答えが出なくても、考え続けなければいけないと思った。あと、りんごの少女のような大きなことはできなくても、ヘートヴィヒの母のように、おかしいと感じたら誰かに伝え、迎合しないようにしたい。
ぷにゃぷにゃさん
怖いですよね。
ウクライナの兵士達も、本当は戦いたくないのに、国を守る為に兵器を手にする。
立場は真逆ですが、心の内には共通する思いがある。
本当に恐ろしく悲しい事ですよね。
ぷにゃぷにゃさん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
想定していた以上に重い作品でした。
恥ずかしながら、ルドルフ◦ヘスの名前を本作で初めて知りました。
アウシュヴィッツ強制収容所に隣接した場所に、収容所所長の邸宅が実在する事も、鑑賞後に知ったという。
手記なので、本作以上に重そうですね。