「これ、お前のことだからな。」関心領域 shironさんの映画レビュー(感想・評価)
これ、お前のことだからな。
改めて映画の奥深さを感じる
映画はよく“総合芸術”なんて言われたりしますが。
私はむしろ映画の“大衆娯楽”な一面を愛しているので、“芸術”なんて言われると「そんなに敷居を上げなくても…」と怖気付いてしまいますが。
でも“総合”については、本当にその通りだと感じています。
いろんな要素が合わさって一つのシーンが出来上がっている。
プロフェッショナル同士の表現の結晶のようなシーンに出会うと、言葉にできない感情が揺さぶられます。
『ようこそ映画音響の世界へ』で丁寧に説明されていますが
私たち観客は音によって奥行きや距離を感じ取っていることを改めて体感しました。
カメラのフレームの外側にも世界が広がっていると感じる。
そして、平面でしかないスクリーンの映像を立体的な空間として感じるのには、劇場によるサウンドデザインも重要。
この没入感は、映画という作品を届けようとする全ての人の技の結晶なのだなぁ。
聴覚に集中した状態から、一気に情報量が増えるファーストシーンだけでも劇場で体感してほしい!
貴重な映画体験でした。
そして、チャレンジングな映像表現に刺激を受けた方には『映画(窒息)』もおすすめ。
映画への挑戦状でありラブレターです。
サンドラ・フラーさんの品のない歩き方が素晴らしい。
どんな役どころでもリアリティを持って演じ分けられる役者さんですが、立ち姿やちょっとした仕草から、その人物がどんな人生を歩んできたのかが想像できるところがすごい。
『落下の解剖学』に続いて自分の考えを主張する強めな役どころでしたが、またコメディもみたいなぁ。
子供の頃にアウシュビッツ展に行った時の恐ろしさを思い出しました。
実際にアウシュビッツを訪れたことのある方には劣るでしょうが、再現されたガス室を通るだけでも怖くてたまりませんでした。
靴はもちろん、髪で編まれた毛布や入れ歯に石鹸。壁いっぱいに貼られた犠牲者の写真も展示されていました。
これは決して過去の物語ではない。
まさに今ジェノサイドが起きているなかで生活をおくっている私自身に「これ、お前のことだからな。」と突きつけられました。