「遠くにいる私たち」関心領域 おひさまマジックさんの映画レビュー(感想・評価)
遠くにいる私たち
「ああ…やっぱり来なければよかった…」
この日は某企業のお客様感謝デー。とってもお得に映画が見れるというのに。
目一杯、お客様感謝されたがるワガママな私の、至福の時間に相応しい映画として選んだ本作。
上映早々に耳に突き刺さってくる、人々の断末魔のようなオープニング音楽。
至福の時間は、あろうことか一瞬で苦行へと導かれた。
マジか。。でも、よし、いいよ。覚悟したよ。受け止める。
***
本作の目指した、風刺的かつ鋭いメッセージ。なぜ今この題材なのか、そして本作が観客に問いかける「自らを疑え」と言わんがばかりのテーマは、相当に意義のあるものだと思う。本作が日本に於いてもヒットしている事実がそれを物語っているのだろう。
1秒後に過去となる「いま」は、一人ひとりの人生のワンシーンであるとともに、引いては人類史、至っては地球史のワンシーンと考えたほうがよい。そして今日、平穏平和とは言い難い事象がそこここで起きているわけだ。
それで?
道端で人が倒れても素通りしますか?ってやつだ。
電車の中で人が倒れたら、ビビって不安そうな視線を投げかけるだけ?ってことだ。
壁の向こうで100万人以上の人々が死に続けていても普通に暮らせる感覚は文字通り狂気の沙汰だが、いまガザで毎日200人ペースで死んでいる状況にも関わらず、今日は大谷さんがホームラン打ったかどうかをまず知りたいお前(=私ね)の心も似たようなものじゃないのか?と、パンと頬を張られた気持ちになった。
以上が素直な感想で、以上です!
***
と、ここで筆を置いたほうが良いことは重々承知の上で、底意地の悪さが鎌首をもたげてきたのだ。
確かに、音響やビジュアルやカメラワークがモダンだし、アート性の高い絵面はある種、眼福だった(ポスタービジュアルは意味合いも含め秀逸!)。
時折 見ているこちらの眠気を誘うほどの平穏な生活。その裏で当然にあった狂気を、例えば子供心をネガ現像で描いてみたり、美しい花々がまるで能面のように無表情でこちらを見つめてくる映像、また現代のアウシュヴィッツ博物館の平常風景の差し込み方など、狂気を異なる視点から描くことで、そこはかとなく恐怖を伝える手法が印象的。
しかしだ。
最近、加害者側を主役に据える作品、多くないかい?
逆転の視点は謎=見たい、おもしろいのは理解しているし、本作の制作意図は前述の通りだから、それも納得なのだが。
でもこれは人類史上最悪の戦争犯罪であるホロコーストがテーマでもあるのだ。
ホロコーストは、本作「関心領域」「シンドラーのリスト」「ライフ・イズ・ビューティフル」など本当の意味では描けないほどの殺戮であって、もしそんな映画を作ったら観客が卒倒してしまうとはいえ、しかしそういう狂気に直に触れた恐怖体験が、戦争を繰り返さないという集団的自戒=平和な時代を作ってきたはずだ。ある種の凄惨な「疑似」体験が戦後80年を超える現代にはそろそろ必要なのでは無いか?そう思うのだ。
映画は、本当の痛みを伝えることができる文化でもあるのだ。
そんな映像を、とうてい私は見る自信は無いのだが、私と同じように考える「普通の人々」が、さしたる意味もなく今 悲惨な現状に追い込まれている。
ぶちまけると「関心領域」も「オッペンハイマー」も、そこにいない人、”遠くにいる人用”の啓蒙映画でしかない。被害者当人に【僕たちね、今こんな感じで映画みて『やっぱ考えなきゃなー』っていう勉強してるんすよね】なんてこと、言えないでしょう。
じゃあ何ができるの?具体的にやれること無いじゃん!
っていう感覚ね。諸悪の根源かと。
ああ…苦しいな。
うまくレビューなんか書けないわ。
おひさまマジックさん、コメントありがとうございます。
私も、おひさまマジックさんも、この映画制作者の術中にハマった口みたいですね。
考えて突き詰めて、人社会が繰り返してきた普遍的と思える「悪行」を分析して、回避する術を探る、優秀なAIが可能にするかもしれません。但し、実行するとなったら、全員がそれを理解すること、全員の知識の底上げが必要だと、思いました。
加害者側を知ることが、回避方法を見つけるためにはとても重要と思います。
ズレてたらすみません。。。
こんにちは
A24映画って、「ヒト」の怖さを描いているものが多いような気がするんです。
なので、私にはこの映画は、人の内面(狂気)が最恐の、ホラーでした。
こんな風になれるものなのか、と驚異でもありました。
そして、端から見たら狂気なのに、仲間内では「普通」または「正義」だということ。これもニンゲンの集団心理というやつで、考えてみれば思い当たる事例がいくつもあるような。
遠くにいる人達への「啓蒙映画」言われてみればそうかもしれません。
渦中にいないつもりだけど、実はどっぷりはまってて気づかないだけだったりして
返信遅くなりすみません💦花のシーン、もう一度見返してみたいです。無機質な世界観なので、綺麗なものは余計に違和感を感じさせますよね。一つわからなかったシーンがあって、夫のヘスが夜庭にあるプールの前に立ってヒモみたいなのを引っ張るシーンがあったと思うのですが、あれはアウシュビッツの火葬場とかと繋がってるんですかね?調べても出てこなくて💦そのシーン覚えてらっしゃいますか?
共感ありがとうございます😊
この映画は、歴史的背景も知っていないと意味がわからない部分もあるだろうし、非常に難しい映画ですよね。監督が狙ってるところは分かるのですが、意味がわからないって状態になる人がいるのもわかります💦
その映画を観ることによって、1人でも意識が変わる人がいれば、その映画の価値ってあるのかなとも思いますね。まとまりのない文章ですみません😢
「啓蒙映画」
自分の中で突き詰めれば突き詰めるだけ、「観客」は「辛く」なりますよね。
で、見て、何がどう変わるというのか・・・。
「啓蒙映画」という表現は初めてでしたが、適切な表現なのかもしれません。
それでも、必要な映画だとも思いました。
こんにちは。
自分はどうしても、メッセージ性ではなくアイデア性の作品に見えてしまいます。
この題材だと、“仕事”という体裁や、逆らえばどうなるか分からないという背景が付き纏いますし。
(あの情勢下に、“良心”だけでヒトラーに異を唱えられるか、と…)