「対比と拡張」関心領域 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
対比と拡張
音響賞をとるだけあって目新しい音の使い方だった。というか、そういう手法は勿論あるのだけれど、作品一本分に及ぼされる事はなかった。
アウシュビッツを具体的にイメージ出来る人には恐ろしい映画なのだと思う。悪名名高い刑務所が壁一枚隔てた向こうにあって日常的に銃声やらなんの声だか分からぬ声が聞こえてくる。亭主はその刑務所に勤めていて結構な地位の人物だ。
この一家は、全く壁の向こうに関心がない。嫌悪感すら抱かない。故に奥様などは、やっと見つけた理想の場所とか言う。
隣接する其々の場所は天国と地獄なわけで、天国に住まう人間は地獄なんかに興味はなく、地獄に住まう人間は天国がある事もわからないのだろう。
そんな事が「音」で語られる。
カメラは動く事はなく定点で、引き絵が多い。そんなアングルに足されていく環境音が、前出した「地獄からの音」なのである。
全く歯牙にもとめない。
銃声だろうと叫び声だろうと、死体を焼く煙であろうと眉一つ動かない。
と、まあ、普通というか残酷というか…無関心な状態を克明に描いた映画なわけで、さすがA24とこぼしてしまう曲者な作品ではある。
ただ、コレ…アウシュビッツが脳内でそこまで連動してない俺のような人間からすると、転勤するのしないのの話で、ぶっちゃけ内容すらない。
作品のコンセプトとして、この組み合わせはベストであるのは間違いなく…だって、どうでもいいホームドラマをやってる隣で毎日何百人と虐殺されていってんだから。ドラマなんざ薄ければ薄い程いいんじゃないかと思う程だ。
ただ…つまんない。
カメラは動かないは、ドラマは薄いは、台詞は少ないは…視覚的な刺激が極端に乏しい。
観客を選ぶ作品だと思われる。
俺は所々寝た。
違和感はそれなりに散りばめてあって、娘なんかは精神に異常をきたしてるような兆候があったり、夫婦がベッドに寝転がりながら豚の鳴きマネをする夫でゲラゲラ笑ってたりする。あの鳴き声は実は囚人の断末魔の声をマネてたみたいな想像も出来たりする。
音と同じように「想像」が介入して成立する構成に思わなくもない。脳内で情報が拡張されていくわけだ。
そんな事を加味すると、映像で語られる「関心領域」の外側はシャットダウンにも感じるのだけれど、関心領域自体は外側からの情報に侵食され歪に広がっていくようにも思う。
端的に言うと慣れとか麻痺の類いだ。
そしてそれらは日常的に発動する性能でもある。
知らぬ間に陥ってしまう状態だ。
そして、冒頭からしつこいくらいに突きつけられる定点カメラが現在のアウシュビッツを映し出した時にゾワッとする。
なんか、凝縮してる。
目を背けたくなる何かが沈殿して煮詰まって凝縮してるよう見えた。今まで散々無視してたものは「無い」ものではなく「有る」もので、そこで起こった惨劇も膨大な時間も慟哭も全部が存在してた。
人類の負の遺産を突きつけられたような気分だった。
着眼点は出色で色々と意欲的な作品であった。
随分と挑戦的な作風にも思うが、そんな作品を世に問いかけたA24はさすがだと思う。