劇場公開日 2024年5月24日

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「嫁という字は女に家と書く」関心領域 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0嫁という字は女に家と書く

2024年5月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

難しい

『ルドルフ・ヘス』の名前で知られるナチスの幹部は二人いる。

一人は『ルドルフ・ヴァルター・リヒャルト・ヘス』で「ナチ党」副総統。

そしてもう一人が『ルドルフ・フランツ・フェルディナント・ヘス』。
「SS」の将校でアウシュヴィッツ強制収容所の所長が本作の主人公。

もっとも本編では重要な役を担うのは
『ヘス(クリスティアン・フリーデル)』の妻『ヘートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー)』と
夫婦が住む瀟洒な邸宅そのもの。

『ルドルフ』が収容所を虐殺機関として拡張・機能させるのと並行して、
『ヘートヴィヒ』は隣接する自宅を居住空間としてより心地好いものに充実させる。

プールもある、広い整備された庭。
広く居心地の良さそうな室内。
かしづく多くの使用人。
そして五人の子供たち。

夫が昇進により、この地を離れることになっても、
自分だけは子供と(使用人とも)一緒に残る。
その旨を後任者に伝えるようにと言い放つほど。

が、その心地好さは、傍から見れば首を傾げるもの。

四方は上に鉄条網を備えた高い壁で囲まれ、
壁の上から見える煙突は昼夜を問わず黒煙を上げる。

警備の犬の吠え声、収容所の所員の怒声、
収容者に対する発砲音は絶え間ない。

わけてももっとも違和感を覚えるのは、
焼却炉からと思われる重低音の響き。

一日に何度か着く汽車の蒸気と警笛が、
新たな犠牲者の到来を告げる。

勿論、それらが何を意味するかは、
鑑賞者の我々のみならず、そこに住まう人全てが知っている。

にもかかわらず、彼等・彼女等は
聞かれれば「収容所の中でそんな残虐な行為が行われていたなんて知らなかった」と、
ぬけぬけと話すに違いない。

収容所に移送されて来たユダヤ人から巻き上げた物品を
素知らぬ顔で身に着けていながら。

もっとも、正常な神経の持ち主も中には居る。

娘を訪ねて来た『ヘートヴィヒ』の母親は、
最初こそ住まいの素晴らしさに感嘆をしていたのに、
数日も経たぬうちにオゾケをふるい姿を消す。

最初はそれらを認知しながらも
意識の外に押し出していたのかもしれない。

しかしやがて、そうした景色や音が周囲にあることが
当たり前になり、違和感が無くなり、
関心を向けなくなるおぞましさ。

いや、これはドイツだけの話しではない。

以前に(旧)大連に住んでいた人と会話した時のこと。
「自分たちが造り上げた文化都市を、終戦とともに
中国人に奪われてしまった」と、戦後六十年を経ても
悔しそうだったことを思い出す。

もう二十年も前のコトなのに、
その時の戦慄は今でも強烈な記憶。

自分たちにとっては道理でも、
傍目には欺瞞が、実は自分たちの身近にもごろごろしている。

ジュン一