劇場公開日 2024年5月24日

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「収容所の中を見せないことがかえって収容所を見せてくる」関心領域 yukarinさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5収容所の中を見せないことがかえって収容所を見せてくる

2024年5月25日
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鑑賞方法:映画館

映画は幸せそうな家族の日常から始まる
だが、気づく
銃声、人の叫び声のようなものが聞こえ続けていることに
そうして、家族の日常に少しずつ入り込んでくるものにも気づく
妻が試着するのは奪われた毛皮のコート、ポケットに入っていたリップスティック
夫のブーツを洗った水の色
川に流れてくるもの
空に立ち昇る黒煙
列車が到着したとわかる煙が流れていく

観ている側は、アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所だとわかっている
少なからず、映画などの映像や残された写真などを見ているからこそ、想像力が見えない壁の向こうの収容所の様子を浮かび上がらせてくる、聞こえている音ともに
すごい演出だ

もしも家族が、ユダヤ人や収監された人たちが、絶滅収容所と呼ばれたアウシュビッツ=ビルケナウで、どんな目にあっていたかを知らなかったとしても、少なくともある程度以上の年齢なら、あの距離で聞こえたはずの音や声、匂いで、その異様さに違和感を感じたはず
それでも、まるで何も起きてないように過ごせていることの恐怖
「ヒトラーのための虐殺会議」を観た時にも似たようなことを思ったけれど、なぜ?
理解できない

妻の母が途中でいなくなる
恐らく置き手紙と思われるものの中は見せない
それでも、前夜、赤い空に目を覚まし、窓辺で収容所を見ていた表情からして、うかがえる
そちらのリアクションの方が理解できる
それでも、妻は難しい顔で、しかし感情を一切出さずに、その手紙らしきものを火にくべてしまう
もしかすると、罪悪感や違和感、嫌悪感があるのかもしれない
けれどそれを認めたら、なにかが崩壊してしまう
だから、認めない、受け入れない、気づいてないふりをしているのかもしれない

途中、果物を置く女性が出てくる
最初は娘の夢なのかと思ったが、なにか違う
2度目に出てきた時、状況を理解する
そして、やはり、隣でなくても匂いがしていることが鼻をおさえて窓を閉める動きでわかる

この作品は、説明を一切しない
けれど、随所にヒントを出してくる、見せてくる

さらなる大量虐殺を前に、最後のヘスの吐き気、その後に映し出される現代のガス室、焼却炉、収容された人たちから奪ったカバン、靴、衣類、写真から、アウシュビッツ・ビルケナウ博物館だとわかる
そこを清掃する人々
正直、ガス室の掃除をひとりでやるのは気分の良い仕事ではないし、毎日残されたこれらのものと対峙するこの仕事、なかなかハードでは。と思ったが、同時に、これが日常の人たちがいるのだな、と。かつてのヘスたちのように
そこからヘスに戻る
まるでともに今の映像を見たかのように佇むヘス
だが、彼は再び歩き出し暗闇に消えていく

エンディングロールを見ながら、強烈ななにかが残ったことを感じる
そのなにかを考え始める

yukarin
かばこさんのコメント
2024年5月28日

アウシュビッツの博物館の描写で、ホロコーストが紛れもない事実だと改めて認識させられました
ヘスの奥さんの、あの異様な鈍感さ、無関心はどこから来たのだろうかと考えてしまいました

かばこ