「「Aleksandra Bystron-Kolodziejcz」をググると絵本のシーンの意味がわかります」関心領域 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
「Aleksandra Bystron-Kolodziejcz」をググると絵本のシーンの意味がわかります
2024.5.24 字幕 イオンシネマ京都桂川
2023年のアメリカ映画(105分、G)
原作はマーティン・エイミスの『The Zone of Interest』
アウシュヴィッツ=ビスケナウ強制収容所の隣に住むドイツ人一家を描いたヒューマンホラー
監督&脚本はジョナサン・グレイザー
原題は『The Zone of Interest』で「関心領域」という意味
物語の舞台は、1943年のポーランド・アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所近郊
そこには、SS親衛隊の司令官ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)の一家が住んでいた
妻ヘートヴィヒ(サンドラ・ヒューラー)との間に5人の子どもを授かっているルドルフは、ポーランド人のメイドを複数人雇い、庭師も雇って、自分たちの住処を形作っていた
ある日、火葬装置の業者が彼の家を訪れ、そこで新型装置の説明を受ける
ルドルフは上官のビショフ大佐(Kaudiusz Kaufmann)にその性能の高さを進言し、これによって計画が押し進められることになった
ルドルフはこの功績を認められ、組織の配置転換の中で、昇進し転属することが決まる
だが、妻は動くことを拒み、「行くのなら1人で」とまで言ってしまう
そこで彼は収容所の総監であるリチャード・グリュックス(Rainer Haustein)に宛てた手紙を綴ることになったのである
映画は、強制収容所の隣に住んでいた一家の日常を切り取る内容になっていて、映画のタイトルコールが出た後に「じんわりとタイトルが侵食されて真っ黒になる」という演出がなされる
暗転してから約1分ほどの沈黙があり、そこから環境音が流れていく、という演出になっていて、その後も単色(黄色など)で埋め尽くされたシーンが登場する
また、劇中でルドルフが眠れない娘インゲ(Mele Ahrensmeier)に対して絵本を読み聞かせるシーンがあり、それは「ヘンゼルとグレーテル」だった
この絵本のイメージにて、グレーテルが道しるべとしてパンを落とすシーンがあるのだが、映画では「リンゴを作業場に埋める」という行動になっている
この時の少女を演じたのがJulia Polaczekなのだが、彼女はアレクサンドラ・ビストロン=コウォジェックの若年期として映画内に登場している
彼女は幼い頃にアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所の囚人たちに食べ物を届けた人物で、のちにレジスタンスに加入することになる女性だった
このイメージは「絵本を聴いているインゲの脳内イメージ」ということになるのだが、何も知らない子どもたちも、潜在意識の中で、この場所で起こっていることを理解し始めているように描かれていたと言えるのではないだろうか
物語の中盤には、ヘートヴィヒの母リンナ・ヘンゼル(Imogen Kogge)がやってくるのだが、彼女も情報としては知っていたが、1日中「何か」が聞こえる状況に耐えられずにあっさりと帰っていた
教育されている子どもたちが感じる違和感、道徳的なものを考えてしまうリンナたちの方が正常で、夫の転属で引越しすることを拒む妻は異常にも思えてしまう
それぞれが自分の心を守るための精神的な領域というものを持っているが、あの場所で正常でいられるのは、より強固な目的と役割を持っているルドルフと、彼以上にその場所を聖域化している妻だけなのかもしれません
いずれにせよ、音が大事な作品で、目の前で展開される様々な引用は馴染みが薄いので、その意味がわからないと単調のように思えてしまう
実際には多くの意味があって、特に子どもたちが過ごしていく中で違和感を感じていく過程であるとか、教育によってそれを超えていく状態であるとか、家族の中の年齢差と知能によって、状況に反応する違いがあるのはすごいことだと思う
外から見ている未来人は何が起こっているのか知っているのだが、既知と未知の間にいる家族たちにどのような影響が起こっているのかを観察することができれば、この映画の真の目的が理解できるのではないだろうか