「【ユダヤ系イギリス人のジョナサン・グレイザー監督がアウシュビッツ収容所のホロコーストを”不穏なる音響”で描き、且つ、壁の外側の”裕福な”ドイツ人家族の関心ある事しか見ない心の闇を描いた作品。】」関心領域 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【ユダヤ系イギリス人のジョナサン・グレイザー監督がアウシュビッツ収容所のホロコーストを”不穏なる音響”で描き、且つ、壁の外側の”裕福な”ドイツ人家族の関心ある事しか見ない心の闇を描いた作品。】
<感想>
・オープニング、不穏な音が響く中暗闇が続くが突然、晴れやかな空の下、子沢山の家族が川べりでピクニックをしている風景が映される。平和な風景である。
・その後、家族の父はナチス親衛隊(SS)の制服を着て家を出て仕事に行く。
ー 家族や、彼の部下たちの会話を聞いていると、その父親がルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)であることが分かって来る。
ご存じのように、アウシュビッツ収容所所長で、戦後絞首刑に処された男である。-
・今作では、アウシュビッツ収容所内は描かれない。収容所と接したルドルフ・ヘスの瀟洒な家の中で暮らす彼の妻ヘートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー:「落下の解剖学」に続き、印象的な演技で愚かしき妻を演じている。)を始めとした家族や家政婦たちの姿が描かれる。
・ヘートヴィヒは自分の理想とする生活を手に入れた満足感で、家政婦から差し出された明らかにユダヤ人の女性のモノと思われる毛皮のコートを身に纏い、満足気である。
更には、同じくドイツ人の女性がユダヤ人の歯磨き粉の中から見つけた指輪を自慢げに見せ、子供はユダヤ人と思われる歯で遊んでいる・・。
ー 家の壁の外からは、パンパンと乾いた銃声や怒声、犬の鳴き声、叫び声が聞こえて来るのに彼女の耳には入らないらしい。そして、壁の向こうに立つ煙突からはもうもうと煙が出ている。関心のある事しか見ないヘートヴィヒや彼女の友人、子供達の姿が恐ろしい。-
・ヘートヴィヒの母がやって来て、娘の住まいを見て驚き賞賛するが、彼女は夜でも響く焼却炉の腹に沁みる不気味な音と、業火の如く炎を上げる煙突を見て夜中に姿を消すのである。
ー そして、ヘートヴィヒは母が残した手紙を読んだ後、怒りながらポーランド人と思われる家政婦たちに怒鳴り散らすのである。-
■劇中、2度、少女がユダヤ人たちの労働場と思われる所で、土に林檎を埋めたりする姿が暗視カメラで映される。
非常に印象的なシーンである。
・ヘートヴィヒはルドルフから転属を告げられるが、彼女は”漸く理想の生活を手に入れた”と言う考えの元、共について行く事を拒む。それを容認するルドルフ。
・子供達と川遊びに来たルドルフだが、川の中で煙突から出た灰と共に運ばれたと思われる骨を見つけ、慌てて子供達を川の中から出し舟に乗せるシーンも、冒頭のシーンとの対比が印象的である。
<再後半、ルドルフは転属先で精力的に会議を進行させるが、その後建物の階段を降りていく際に2度、吐瀉する。彼の心に何か小波が起きたのだろうか、終戦間際になっての自身の行く末を考えたのか、良心の呵責が初めて身体の反応として出たのか・・。
そして、突然、画はアウシュビッツ=ビルケナイ博物館と思われる通路の両側にガラスを隔てて山のように積まれた無数のボロボロの靴が映し出されるのである。
今作は、ユダヤ系イギリス人のジョナサン・グレイザー監督が、関心のある事しか見ないルドルフ・ヘス及び妻ヘートヴィヒを始めとした全体主義に侵された人々の心の闇を描いた作品なのである。>
コメントありがとうございます。
小生の追記の最後に書いた事はNOBUさんもそう思っていらっしゃるのではないでしょうか。
これからのNOBUさんの西部劇のレビューが楽しみです。