「誰もが知っている」関心領域 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
誰もが知っている
壁の向こうで24時間、何が起こり何をしているのか皆、感づいている、聞こえる。自分たちがなぜ高価な毛皮のコートや指輪やらを入手できるのかも知っている。それをグレイザー監督は向こうを見せずに示した。映画監督が自分で自分の手を縛って見せないことを選んだ。
ザンドラ・ヒュラー演じるヘドウィグは5人の子どものお母さん。こんなにたくさん子どもを生んでいれば表彰ものだろう。地元ポーランドの女性を何人も家政婦として雇っているヘドウィグはガーデニングに精を出している。「天国の庭」と呼ばれる庭には色とりどりの花が咲き誇っている。平和だ。彼女は少し滑稽な大股歩きをしていて、幸せかどうかよくわからない表情をしている。時にかなりアグレッシブな物言いをする。お父さんは昼間は壁の向こうで精力的に働いている。会議の後、美しい大理石の廊下に嘔吐した。身体は正直だ。晩はこちら側に戻って眠る前の子ども達にグリム童話を読んであげる。「ヘンゼルとグレーテル」の最後のシーンに心臓を掴まれながら。
上機嫌に妻を「アウシュビッツの女王」と呼ぶ優しい夫。緑に囲まれプールもある素敵な邸宅。川が流れ緑したたる美しい野原にピクニックに行ってポーランドの美しい夏をみんなで楽しむ。誰が見ても普通の、ただかなり豊かな家族の風景だ。その「豊かさ」をなぜこの家族が享受できているのか夫妻も家政婦も、遊びに来るも向こう側から聞こえる音に不安でいっぱいになって何も言わずに帰ってしまったヘドウィグの母親も知っている。でもそれを話題にすることはない。
この映画は壁の向こう側を映さないことで、今も続く豊かで幸せな無関心の世界をうつしている。そして、自分や家族や友人や仲間や祖先が過去に悲惨な苦しみを受けたら、その「自分」が今度は他者に悲惨な苦しみを与える側に立つことは許されるのか?を問いている。
おまけ
特別先行上映で見ました。ナチ時代における女性史研究のスタートは遅かったが流れは早かったようです。当初は女性は被害者という見方、それが女性も主体的にナチに賛同し行動し利益を受けるなど共犯者でもあったことがここ数年の歴史研究で解明されてきたようです(井上茂子「ナチ時代のドイツ女性を再考する」所収『歴史評論』vol.889 /2024.5.より)
ご返信ありがとうございます😊
詳しく教えていただきましてありがとうございました😊
イスラエル🇮🇱訳わからなくなっていますね。勝手な想像ですが、ヨーロッパ辺りからだからユダヤ人は嫌い、という声が聞こえて来そうな。何にせよ、人を殺すのは辞めて欲しいですが。
ありがとうございました😊
共感ありがとうございます😊
先日のTVで識者が、現在のイスラエルのエゲツなさ(私の言葉)は、やはり、holocaustかあったから、と話されていました。ちょっとわからないのですが、ナチスに迫害されていたのは、ヨーロッパに住んでいたユダヤ人。中東に住んでいたユダヤ人は、迫害を受けていないのですよね。ただ、ヨーロッパからも逃げて行ってイスラエル作って。
なんか大義名分みたいなところもあり、
ユダヤ人への見方が変わって来つつあるな、と思うこの頃です。
>美しい大理石の廊下に嘔吐した。身体は正直だ。
>晩はこちら側に戻って眠る前の子ども達にグリム童話を読んであげる。「ヘンゼルとグレーテル」の最後のシーンに心臓を掴まれながら。
こういうシーンありました。忘れていた。。
人間性が残っていることを指し示していると思いたい。
talismanさん
ヘドウィグは酷い人物に見えますが、少しでも生活を飾り立てて生きる自分たちに重なる部分がありますよね。
ご指摘のとおり、アカデミー賞における監督の言動もしかり、現在の事象を含み言及された映画だと感じます。
talismanさん
コメントを頂き有難うございます。
栄養状態も悪く劣悪な環境の下、talismanさんが昨夜思いを馳せられたように睡眠も十分に取れてはいなかったでしょうね。
先程検索してみたところ、10〜12時間の労働だったようで、働きが悪いと射殺されたりなど、まるで物のような酷い扱いだったとの記述がありました。
talismanさんは既にご存知かも知れませんね。
体力も衰え、囚人服を纏い、睡眠も十分に取れない中での肉体労働、本当に過酷ですよね。
talismanさん おまけの情報ありがとうございました。興味深いです。
そして、自分や…問いている。の部分に共感、とても考えさせられています。
他作への共感もありがとうございました。
こんばんは。
今日観てきました。ううう、怖かった。
ザンドラ・ヒュラーよくこの役を引き受けましたね。
ドイツが負けて、この一家がどうなったのか、知りたいです。
天国から地獄へ、急転直下ですよね。
塀の向こうで起きていること、高価な毛皮のコートや指輪を入手できる理由をみんな知っているけれど、少なくともヘス邸でお茶している奥様方には一片の後ろめたさも罪悪感もない、当然と思っているよう。
ユダヤ人は劣等人種、悪。そのような洗脳がされて、集団心理でそれを正として共有しているからではと思いました
コメントをありがとうございます。
最初は母親が庭で赤ちゃんを抱きながら、花の匂いを嗅がせたり穏やかなシーンでした。
ところが、メイドに酷いセリフを言ったり、赤ちゃんが夜中に泣きわめいてるのに、シッターも抱かずに無言で見るだけで、母親ももちろん自分の寝室から出ない。
音に対して、鈍感になっているような異常さも描かれてました。
壁の向こうは残虐、こちらは幸せという設定だったんですね。
全く理解してませんでした💦
だから、あのお父さんが悪とは思ってなく、吐いた意味み分からず(笑)
解説有難う御座います!
コメントありがとうございます。
普通の人々が仕事として人間の「処分」に関わりながら、残虐性に目をつぶることが出来てしまうことにぞっとしました。
おまけとして言及されている文献の内容も興味深いです。
ですね!
talismanさんのレビュー観るとシブめの作品多いっすね!ありふれた教室は明日か明後日予定です~
今週は後5本観る予定なんですが、どう攻めようか考え中です(笑)
アウシュビッツの博物館は行ったことないんですが、ミュンヒェン郊外のダッハウ強制収容所記念館には行ったことあります。殺された人達がちょっと前まで(ガス室に入る直前まで)履いていた靴が山のように積まれた展示があってそれが余りに強烈で言葉を失います
たくさん共感とコメントありがとうございます。
代表でこちらに返信しますね(笑)。
BR松竹東急の高峰秀子特集のおかげで、作品5作に出会えました。
こんなすごい女優だったなんて、知らなかった。
驚きました。
ナチスの影響は、今でも大きいですね。
パレスチナ問題も、元はナチスだと思います。
悲しいことです。
「関心領域」良さそうなので、観に行きたいです。