「荒井晴彦の遺言のような」花腐し 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)
荒井晴彦の遺言のような
荒井晴彦が、松浦寿輝の小説を基に、ピンク映画に関わる二人の男と一人の女の性愛の日々を映画化。原作小説を相当翻案しているそうで、荒井自身がかつて主戦場にしていた、今や消え行くジャンルであるピンク映画・ロマンポルノへの惜別の思いを込めたような作品となっている。
冒頭の心中から葬式あたりは、主人公の綾野剛の表情や話し方もあって、陰鬱な雰囲気だが、雨をくぐって立ち退きアパートに住む柄本佑と出会ってから、一気に物語が転がり出す。現在はモノクロ、過去はカラーという、常套手段とは逆にしているのが面白い。大家が歌う「君は天然色」に引っ掛けていたことに、後から気付いた。
「ラストタンゴインパリ」「卒業」「セントエルモスファイア」「カスバーハウザー」といった数々の映画を取り上げているのは、映画好きとして嬉しいところだか、これも荒井晴彦の創作だろうか。
綾野剛は、暗い中でも時折優しさを見せている。柄本佑は、持ち前の軽さとあっけらかんとした感じで、うまく対照を示している。さとうほなみは、脱ぎっぷりはよいが、あまりに普通っぽくて、ファムファタールの危うい感じはしない。
女と別れるきっかけが、二人ともに女が妊娠したからというのは、ちょっとベタな気がした。韓国スナックから戻った後で、女二人とまぐわうシーンは、意味がよくわからない。初期若松プロの白黒ピンク映画を再現したかったのだろうか。
前作「火口のふたり」では、災害にへこたれないエネルギーを感じさせられたが、今作では、ピンク映画業界の衰退や、震災後の政治情勢を含めて、「諦め」に近いものが感じられ、いわば荒井晴彦の「遺言」を見せられたような、ある種の寂しさを感じた。(「さよならの向こう側」も深読みすると…)
本人へのインタビューでは、まだまだ映画作りへの意欲はあるようだが。