劇場公開日 2023年7月1日

「浪花節はいいなあ。」絶唱浪曲ストーリー 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5浪花節はいいなあ。

2023年7月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

画面には、すでに鬼籍に入られた港家小柳師匠。力強い唸りをみせるが、徐々に衰えをみせていく。その時間経過が残酷だった。しかしそれはすべての芸事が次代へ受け継がれていく過程の記録でもあった。寄り添う戦友のような玉川祐子師匠。生まれ故郷の茨城弁のままのキツメの言葉使いの奥には、人情味があふれている。そう、浪曲は人情を謳う。そして、義理も唸る。語る物語そのままの世界。その後ろ姿を、弟子である小そめさんが身をもって体験しているのは、ご自身にとっても財産だろう。はじめ浪曲界の重鎮を目に焼き付けようと思っていたのに、いつのまにか、小そめさん目線で二人を敬い、見届けようとしている自分がいた。
沢村豊子師匠の矍鑠としたお姿や、楽屋裏の若手の方々のさらに若々しい姿や、たった数年前の映像なのに、すでに目の前のすべてのことがもう戻ることのない過去であることを見せつけられる思い。幸いにも、浪曲界には若手が育っている感があり、将来に悲観はない。

ただこのドキュメンタリ、浪曲に触れたことがない方には、多少説明不足感はあるのではないか。そこが惜しい。

栗太郎