「朝ドラ臭、強し」おしょりん ぺがもんさんの映画レビュー(感想・評価)
朝ドラ臭、強し
“おしょりん”とは、日中解けた雪が夜間に再び凍結し固くなった状態のことで、回り道せず目指す場所に真っすぐに行けるという意味である。今でこそ眼鏡と言えば福井県鯖江市だが、眼鏡がまだ珍しかった時代にゼロから新しい事業を興すことは、足跡ひとつなくどこまでも広がる“おしょりん”を進むようなものだったのだろう。
原作は藤岡陽子の同名小説。諦めない姿勢を学んでほしいということなのか、この作品はよく高校入試の問題として採用される。そういう関係で事前に原作を読んでいたのだが、話の大筋は概ね小説通り。もちろん原作に登場した人物がカットされていたり、三角関係の要素がやや後退していたりという改変はあるが、それは許容範囲。むしろテンポ良い展開で、しっかりしたお仕事ムービーに仕上がっている。
とりわけ冒頭の福井県ニュースから、トンネルに入った北陸新幹線がタイムスリップして蒸気機関車になり、明治の雪景色(おしょりん)に繋げる導入部は面白かった。インバウンドを見込んだ自治体という大人の事情かもしれないが、羽二重など伝統産業を紹介することにより、小説でカットした部分(機織物も生津村の産業の一つだったが、大火で工場を失う)をうまく補っていたと思う。
一方で感動的なシーンになると、いかにもそれっぽい音楽が流れるのには少し閉口。ここは、台詞と演技で表現してほしいという箇所もあった。しかし、美しい自然に当時の雰囲気を残す建物、職人たちが手にする金属の輝きなど、細部のディテールがその不満を帳消しにする。何より、むめの視点を中心にしたことで、男性的サクセス・ストーリーに女性の強さが加わった。ラストにもう一度登場する“おしょりん”のシーンを見て、つくづくそう思うのである。