「最高に好み」ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語 Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
最高に好み
不確実で複雑な世の中で再生しようとするとき、人類は大昔から物語を必要としてきた。
私も子どもの頃から物語が大好きだ。やさしい、かわいいだけじゃダメ。さみしい、むなしい、こわいが散りばめられたヘンテコな物語が好き。
虚無に包まれた人間がふとしたきっかけで自分と向き合い、新しい境地へ変革するダールのヘンテコな物語。
まずレイフが作家として語り始め、ベネディクトが透視を手にする物語を、更にデヴが医師としての記録を語るという見事な入れ子式手法。登場人物たちは鑑賞者に対してカメラ目線で早口に語る。
語り手が「あくまでこれは物語です」というスタンスを固持してくれることで、物語と鑑賞者のあいだに不思議な距離感が生まれる。
だからこそ、物語は事実ではないが、他者の言葉を通してうっすらと、人生の意味が事実のように立ち上るもの。
聞き手があっての物語。鑑賞者に作者と同等の重要性をもたせる手法と、別の時空の隙間を感じさせるようなしなやかさが何とも言えず心地良かった。
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