「心の功罪。あるべき社会正義がその鍵だ。」ミッシング おひさまマジックさんの映画レビュー(感想・評価)
心の功罪。あるべき社会正義がその鍵だ。
役者・石原さとみの代表作となるのだろう。
いきなり役者のハナシからで恐縮だが、どこからどう切り取っても彼女の一人称のような本作ゆえ、率直に感想を述べたい。
私のイメージだと彼女はアイドル俳優的な印象で、いわばトレンディドラマ役者だったかと。本作の吉田恵輔監督曰く"港区から出たことないような顔してる"は言い得て妙。その後、映画に出演している印象もあったが、個人的には「シン・ゴジラ」の演技力がバッチリNGレベルだった事もあり、本作「ミッシング」での熱演の前情報を聞いても半分疑念というか、映画館での観賞そのものがチャレンジだった。入りにくい曜日と時間帯とはいえ、大型スクリーンに観客はまさかの私一人。文字通り貸し切りだ。これは…である。
結果は…なんのなんの、評判通りの素晴らしいパフォーマンス。
配役の沙織里、見ていて何とも気分が悪い。気持ちはわかる。いや、それを言うと沙緒里のアノ眼差しで問い詰められそうだが、もとい1/3くらい気持ちはわかる。ただその態度や言動は奇行の域に達していて、夫である豊への同情の気持ちがしばらく拭えないでいた。ギャンギャンわめく姿勢と声質が相まって、あろうことか苛立たしさすらおぼえる。なりたい顔V3殿堂入りの美しい面影はほぼ無いと言ってよく、いい加減にしろとこちらが言いたくなるような、そんな素晴らしい演技だった。そして夫婦の言い争いはどこかで見たような(!?)、身につまされる部分もあった…が?脱線失礼。
ダークな題材を話題作にクローズアップさせるタレントパワーは流石だ。今後は、たとえば永作博美のような、出演することで作品へのワクワク感が高まるような役者になってもらいたいと思う。
***
作品について。
ダークな題材かつオリジナル脚本だからか、小説原作の映画化作品と比べるとドラマはかなりソリッドに削られている印象でドキュメンタリー寄り。このあたりはやや好みの分かれそうな所か。手がかり的な事象も一切出ず、観客の気持ちをバラエティニュースの視聴者と上手に同期(疑り)させながら、やはり、ラストも解決に至らず。そして、この暗い作品の流れを壊さずに、残り20分あたりからか、別のポジションへ美しい着地を果たすのだ。
この作品が描くもの。私の解釈は【心の功罪】だ。
現代的なアプローチを取り入れ、既に「起きてしまった」ところから始まるそれは、クライマックス直前の「弟の心情吐露」まで、暗すぎるほど、ずっと暗い。事件エンタメと化した出来事の野次馬から身内に至るまで、脈々と描かれるのは、正義は常に弱いという事実。つまり【心の罪】であったろう。
しかしクライマックス、立て続けに描かれるのは、感謝・共感・同情の織りなすループであり、鑑賞中 窒息しそうなほどの息苦しかった空気が、何とも柔らかくほぐされていく。これこそが本来あるべき社会の姿と思えるし、つまりそれは【心の功績】そのもの。
自分がどうするべきなのか。追い詰めて追い詰め切ったことで自らの心に迷い込み、破壊された理性。完全に自分向きだったベクトルが、ふと、二度と会えないかもしれない娘の心に向いた時、皮肉なことに最も母親らしい姿を見せていく。
3人の親子の姿にも見えるガラス細工が偶然に描く虹。あたかも娘の美羽の旅立ちのようだ。排水溝が映る。海が映る。こわい。子供が戻らないことを暗示するような映像。娘が戻らないと信じざるを得ない年月と反比例するように、母の優しさが沙緒里に宿る。だかそれは哀しいもの。壁の落書きを愛でる手のひらの表情は、優しい。
まともに考えれば娘の失踪とは関連が無さそうに見える、別の事件。それに別の意図を持ちながら起こした行動が、意図せぬ大きな感謝を生み出し、前言を悔い、他人の気持ちに触れ涙する夫の豊の様子。あたかも我々=現代日本社会へのアドバイスのようであった。
***
得るものの多い良作であり、前述の通り石原さとみの熱演も必見に値した。
これで★5を付けないわけにはいかない。
これもやっぱり発信のひとつなので、関わる以上は(振り返ることを含め)責任を忘れちゃいけないなと。
作品を通じ、こうして反省するよい機会にもなりました〜。感謝です。
それにしても細切れになってしまうこの字数制限、もうすこし増えると便利ですよね😅
日頃、私も「レビュー」において(なんか変な例えかもですが💦いつのまにか自分の部屋を好き勝手に使っているように)時々〝レビュー〟という枠の名に安心しがちな自分がいるなと。
ふと読み返してから気付き、わっ!とか、あっ…!とか、年甲斐も無くじたばたあせあせすることがあります。
〝ルール〟と〝見え方〟大切ですね。
関する教育はますます重要で、おっしゃるように年齢に合わせた取り組みは見直しも続けなくてはならないでしょう。
現実に進んでいるAIの活用、可能性についてはなるほど…見え方にそのような効果ができるとなれば、上手な活用が様々に出てくるでしょうから期待ができますね。
自らの心に迷い込み…
たしかに沙織里はそうでしたね。
どんどん追い詰めるたび、自分をわからなくしていた。
今の社会が失っているものに同じ構図を思います。
【心の功罪】納得のレビューを読ませていただきました。
こんばんは。
読み応えのある素晴らしいレビュー拝読させて頂きました。
答え合わせをしているようで、
本作の解釈が深まりました。
ありがとうございました。
【心の功罪】なるほど!