「東京駅から熱海までで大体100Km?」コヴェナント 約束の救出 ゆきさんの映画レビュー(感想・評価)
東京駅から熱海までで大体100Km?
あの同時多発テロの映像をリアルタイムで見た時は、これが本当に現実に起こっている事なのか。。
恐怖よりも先にわからなかった。
頭がフリーズした。それが本音だった。
しかし、報復措置としてアメリカ軍がアフガニスタンに入ったのを目にして
「現実なんだ」と理解した。
本作は、
2018年アフガニスタンでタリバンの武器の隠し場所を探すアメリカ軍の部隊を率いるジョン・キンリー軍曹
(ジェイク)と通訳の為に雇われた、
アフガン人アーメッド(ダール・サリム)の2人を軸に描かれたストーリー。
キンリーが雇ったのは、優秀だがひと癖あるアーメッド。
何度か使われる2人の
「サイドミラー越しの会話」
まだ「互いを利用するだけの関係」
だった2人を象徴しているカット。
それが、タリバンとの銃撃戦や激しい接近戦を共にしていき、アイコンタクトになり、話さなくてもわかる信頼関係が築かれていく過程がリアルだった。
タリバンの武器庫を発見した部隊は、加勢して来たタリバンと激しい銃撃戦の末、キンリーとアーメッド以外全員殺されてしまう。
仲間を亡くし涙を押し殺すキンリーに、何か言葉をかけようとするが、結局無言で側に寄り添うだけのアーメッドの姿が印象的だった。
必死で逃げる2人。
追って来たタリバンとの撃ち合いで重症を負ったキンリーだったが、間一髪の所でアーメッドに救出される。
瀕死のキンリーを台車に乗せて山道をひたすら歩くアーメッド。
途中、
台車も動かない。もう進めない。
力尽きそうになり、心も折れそうなアーメッド。
座り込んで葛藤しながら涙するシーンは辛かった。
出した結論。「置いては行けない」
自分1人で戻るのは危険か?!
アーメッドにとって少なからずキンリーを連れて行く事は、彼の身を守るための
「証人」でもあるし「保険」でもあったと思う。
しかし、そんな事よりも勝った事があった。
友情でも愛情でもない、芽生えていた「絆」があったのではないか。
そして、極限状態でも人間としての善性を保てていた彼のタフさもあっただろう。
人種や、敵・味方という関係を超越した姿に胸が熱くなった。
100キロもの山道を、命の危険にさらされながら歩ききり、遂には軍に救助された2人。
帰国したキンリーは回復したが、アメリカ移住ビザを受け取る事なく潜伏しているアーメッドの現状を知り、彼のビザ取得の為に軍や政府に掛け合う。
しかし、たらい回し。
「祖国の裏切り者」としてタリバンから命を狙われているアーメッドを助けるべく、1人で「約束の救出」に向かう。
そこに至るまでのキンリーの心境が、「恩を返す」というだけでなく、その恩が「呪い」の様につきまとって苦しめられる。という描かれ方が秀逸だ。
自らの呪いからの解放も意味する行動だとも言える。
きれいごとだけじゃない、人間の心理をついていたと思う。
ラストもほぼ語らずの2人。
変に馴れ合いに描かれていないのがリアルに見えた。
アメリカ軍の通訳として働けば、アメリカ移住ビザを取得出来るはずだったアフガンの人々。
それなのにアメリカ軍は多くの人々を置き去りにして撤退した。
重要な役割だった通訳に対して、約束を反故にしたアメリカ政府は本当に罪深いよ。。
本作同様に、
同胞を裏切ったとして、今もなお命を脅かされているアフガン人が大勢いる。
アメリカ移住ビザの発行が条件で5万人のアフガン人が通訳を務めてきた現実がある。
そしてその人々は、今もアメリカ政府がビザを発行してくれるのを待っている。
その事を知ることが出来た。
本作が公開され、この問題が再び取り上げられて、良い方向に進む事を祈る。
そして単に、アフガン人が、負傷したアメリカ兵を運び助け、その恩を返す為、アメリカ政府が動いた。。という美談だけでは終わらせない所は、ガイ・リッチー監督のメッセージだと思った。
エンドロールで映し出されるのは実際に戦地へ出向いたのであろうアメリカ兵とアフガン人の写真。
加工がされていない人々はもうすでに亡くなっていると想像出来るし、数名の顔の目の所に入った黒い線。。
今もなお身を潜めて暮らしている人々がいる。終わりが見えない恐怖を目の当たりにし息をのんだ。
私は戦争を体験してはいないし、テロの恐怖も想像力だけでは理解するのは難しい。
しかし映画や本はその助けになる。
本作でも描いているアフガニスタンの混乱は今も続いているし、ロシアのウクライナ侵攻のニュースも毎日目にする。
子にもしっかり伝える事が務めだと思っている。
今晩は。
レビュー、拝読しました。
”アメリカ軍の通訳として働けば、アメリカ移住ビザを取得出来るはずだったアフガンの人々。それなのにアメリカ軍は多くの人々を置き去りにして撤退した。”
私は、今作をそれまでスタイリッシュな映像でエンタメ作品を数々世に出したガイ・リッチー監督がこの作品に込めたメッセージだと思いました。
ラストのエンドロールで流れたテロップや、タリバンとの闘いに従事した当時の米兵の数名の顔がモザイクが掛かって居たり・・。(亡くなった方だと私は解釈しました。)
ロシア、ウクライナを始め、イスラエル、ガザ地区の戦闘も終わりを見せない中、今作はシビアでしたが少しだけ明るい気持ちを持った逸品だと私は思いました。では。返信は不要ですよ。
こんにちは。共感コメントありがとうございます。
ゆきさんのレビュー、まさしくその通りです。
実話ではなく、ドキュメンタリーみたいですが、
ビザ取得のため、アメリカンのために働いたのに、身を潜めている通訳の方が沢山いるのでしょう。
本当にこの映画で良い方向になると良いですね。