劇場公開日 2023年9月1日

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「作品見せずに画家描く。空虚な宴にいざなう騙し絵」ウェルカム トゥ ダリ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5作品見せずに画家描く。空虚な宴にいざなう騙し絵

2023年9月4日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

ダリ役のベン・キングズレーとダリの妻ガラ役のバルバラ・スコヴァが好演するも虚しい。1974年、ニューヨークでの個展を控えながらも、拠点のホテルでパーティー三昧の日々を送るダリとその取り巻きたち。原題はDaliland、つまり“ダリの世界”に招かれた画廊勤めの青年が映画の案内役になり、著名芸術家の一時期の創作活動、夫婦の関係、交友関係を描いていくのだが、何だろうこのもどかしさは。

もどかしさの最大の要因は、ダリの作品を劇中で見せてもらえないこと。美術業界誌The Art Newspaperの記事によると、金銭的な事情により作品を劇中で使用するライセンスを得られなかったとか。溶けていくカマンベールチーズを見てインスピレーションを得たという、ぐにゃりと柔らかく曲がった時計が印象的な代表作『記憶の固執』をはじめ、アートの制作過程は描かれても、完成品を正面から映すことはない。作品が紹介されない画家の伝記映画の企画がよく実現したものだ。音楽家の伝記映画で完成した楽曲が劇中で流れないとか、作家の伝記映画で小説の文章が引用されないようなもの。ダリの人となりを添えて作品の魅力を伝えてもらえると思ったのに騙された、というのは言いすぎか。

ダリの主要作品は頭に入っていますという美術愛好家なら楽しめるかもしれないが、邦題に反して誰でもウェルカムというわけではなかった。

高森 郁哉