劇場公開日 2023年7月21日

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「ツヴァイク小説を映像で味わう楽しみ」ナチスに仕掛けたチェスゲーム 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ツヴァイク小説を映像で味わう楽しみ

2023年7月30日
PCから投稿

原作はウィーン出身の作家シュテファン・ツヴァイク。近年ではその著作の数々がウェス・アンダーソンの『グランド・ブダペスト・ホテル』に影響を与えたとして作中で献辞が捧げられたことも話題となった。そんなツヴァイクが遺した中編小説をもとにした今回の新作映画。邦題からは頭脳ひとつでナチスに戦いを挑む英雄譚のような印象さえ受けるが、決してそうではない。これはナチス・ドイツによる併合後のウィーンで監禁状態に置かれる主人公が、だんだん時間の感覚を失い、正常な感覚でなくなる中、たった一つの要素が彼の精神を支える話であり、はたまた、それだけではないとも言える。こればかりは自分の目で見て味わうのみだが、いずれにしても混濁する状況と意識の迷宮と、チェスをめぐる運命の絡まり合いが、観る者を惹きつける。思えば、ツヴァイク自身も様々な複雑な思いを抱えながら生きた人だった。この主人公といくらか重なる部分があるのだろうか。

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牛津厚信