劇場公開日 2023年6月16日

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「職場とは」アシスタント ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0職場とは

2023年7月31日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

Me TOO運動の精神を引き継ぐといわれる『ウーマン・トーキング』という作品を最近観た。この映画とは扱っている出来事の重さこそ違うが、実際に出来事が起こっているシーンを一切見せないというところは共通していて、女性たちの濃密な会話劇をメインに据えた力強い映画だった。それに対して、この映画は静寂の中に数々の闇を発見していくという展開で、淡々と、誠実に、現実を映し出している。
キティ・グリーン監督によれば、この映画を製作するにあたって、組織や業界をトップダウンではなくボトムアップで見るという視点に立ち、映画業界だけでなくいろいろな職種の人を調べて、大量のリサーチを重ねたそうである。そのため、この映画は、映画業界特有の要素はなく、仕事や国を問わず、どこにでも当てはまりそうな普遍性を持っているという。
主人公ジェーンは、有名大学を卒業しプロデューサーを目指しているとはいえ、入社したばかりの新人である。掃除や電話応対など雑用をするのは当たり前という感覚で最初は観ていたが、長時間労働、深夜残業、休日出勤、パワハラ、セクハラなど職場の有害といわれる状況がすべて当てはまる環境なので、さすがに気の毒になった。
これから改善していく兆しが見えればいいのだが、こういう日々のストレスだけが積み重なっていくと、だんだん心が折れていく。周りの人は誰も助けてくれない。
有害システムが蔓延した組織・業界というのは加害者が1人ではなく、構造的な問題をはらんでいる。事件が明るみになると、数人が責任を取り、世間体を保つが、結局、すべてを解明することはできず、根本的には改善されない。
一度も名前を呼ばれない社員、作業音だけが鳴り響く環境、笑顔が生まれることのない雰囲気、職場というのは、1日の大半を過ごす場所であるので、少しでも風通しのいい空間にしたいものである。

ミカエル