「5時間40分に無駄な場面なし」夜の外側 イタリアを震撼させた55日間 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
5時間40分に無駄な場面なし
1978年、イタリア首相を5度も務め、当時はキリスト教民主党の党首であったアルド・モーロ氏が極左武装グループ「赤い旅団」によって誘拐され、55日後に遺体となって発見されました。本作は、イタリア現代史に暗い影を落とすこの事件を、政権内部・教会・家族・犯行グループなど様々な視点から描いた5時間40分の巨編です。その上映時間を見ると腰が引けてしまいますが、実際にスクリーンと向かい合うと、「これだけの物語なら、そりゃあこれだけの時間が必要だな」と、お話に引き込まれながら納得しました。無駄な場面は全くありません。
当時のニュースで聞いてはいましたが、本事件にこんな複雑な背景があっただなんて全く知りませんでした。
バチカンが200億リラ(現在の為替レートで16億円)もの身代金を秘かに調達していたって本当?
拉致中のモーロから政府に届いた命乞いの声明は、赤い旅団に無理矢理書かされたの?
その声明を見ての「モーロは狂った」との各方面からの声は本気だったの?
当時のアンドレオッティ首相は、モーロ見殺しも仕方ないと内心思っていたの?
学生の間では赤い旅団への支持も相当数あったの?
の疑問が次々湧き上がると共に、
それまで冷えた夫婦関係を嘆いていたモーロの妻が夫を救おうと敢然と闘い始め、
モーロを父と慕う内務大臣が、捜査の行き詰まりに心がどんどん蝕まれて行く様
は、胸を打ちます。
ユーロコミュニズムなんて言葉を当時聞きかじって分かった気になっていましたが、その最前線はこんなに血まみれだったのだと言う事に慄然としました。
それにしても、と毎度同じことを繰り返します。日本の映画は、なぜ現代史を実名の物語として描こうとしないのでしょう。次の戦争が終わってから、「あの頃は仕方なかったんだ」って言い訳するのでしょうか。