「誘拐事件を前後編で340分で6話構成の力作ですが、知らずに観るとミスリード的演出で混乱するかも😵💫」夜の外側 イタリアを震撼させた55日間 ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)
誘拐事件を前後編で340分で6話構成の力作ですが、知らずに観るとミスリード的演出で混乱するかも😵💫
50代以上のイタリヤ人なら多分大体の人が知っている、事件の実話を元に事実とフィクションを交えた作劇と構成になっており一話冒頭のからミスリード的な始まりがあり、事件を知っていたり感の良い方なら分かると思うが、誘拐後開放された?アルド・モード党首が病院のベッドで横になりながら、見舞いにきたジュリオ・アンドレオッティ首相を真っ直ぐ見つめる場面から物語はその前の過程を語りだすのだか、映画を最後まで観るとこの部分の見方が変化すると思う。
もしかすると同じ場面の最初に最後で演出的な違いがあるのかもしれないが、一回しかみてないので比較は出来ないですが…
一話目はアルド党首の誘拐までの生活と当時のイタリアの情勢が、赤い旅団の暗活と共に語られており、静かだか不穏な空気感とサスペンスフルな演出で引き込まれる。
そして誘拐時の襲撃場面は、迫力を出しつつ抑制の効いた演出で犯人側の焦りも伝わる見事な描写でありマルコ・ベロッキオ監督の力量がわかる。
この一話を見るとアルド・モード党首の人となりが、さり気無く提示されており、大学での毅然とした姿や特に深夜に帰宅して目玉焼きとパンでひっそりと食事をする場面などにも、誠実さが見え魅力的でもある。
二話と三話から別の視点と人物から語りをしていて特に内務大臣の振る舞いや行動は、コッポラ監督の映画『カンバセーション 盗聴』を想起させる。
アルド党首と親友でもあるローマ法王パウロ6世の見る幻覚に近い妄想も冒頭のミスリード的な絵図と演出がここでも入ってきて結構のみこみ辛い部分もあるが、前編はやはり一話目が頭抜けて良かった。
後編の4・5・6話はそれぞれ赤い旅団の側とアルド党首の奥さんの視点から物語が語られており、テロリストでもある赤い旅団のメインでもある男女二人の行動と顛末は、なかなかにシビアで、活動に参加した女性アドリアーナは、映画の『ワイルドバンチ』でのヒロイックで破滅的殉死と解釈して自分に見立てて嘯く男の相棒に自分は「子供や家族を捨て中絶までして戦っているのになんだ!」怒る場面も今も多くある男達の身勝手への問い掛けであろう。
『ワイルドバンチ』1969年の作品なので、1978年頃が舞台のイタリアで上映されているのは偶然ではなく、アウトローでもあるワイルドバンチが、体制側であるマパッチ将軍を撃ち殺す場面を引用していると思うが、もう一つ引用的に名前が上がる映画があり、一話でアルド・モード党首が呟く作品が、フランチェスコ・ロージ監督『エボリ』(1979年イタリア)で、原作は政治犯で反ファシズムのコミュニスト作家レービの体験を元にした映画で、未見ですが内容からしてキリスト的な生き様も含めアルド・モード党首の思想の現れてとして提示される。後はイタリアの闇とも対峙してきた先人でも映画人フランチェスコ・ロージ監督へのリスペクトも兼ねているのだろう。
イタリアといえば食のイメージもあると思いますが、アルド・モード党首が自宅(結構質素)で食事をとる以外の食事場面でもその人の立場が、浮き彫りになる構成は上手いと思う。(法王は親友を立場を思い、ほぼ食事をせず、同じ政党の仲間である首相はジェラートを我慢する程度で済ますとか、アルド・モード党首も監禁先で食をしないなど)
全体を通して事件の事やイタリアの政治体制を知っている方が理解しやすいと思うが、ゼロから見て後でパンフレットなど調べるのも一つの力作だと思う。時間的に厳しそうだと思う方は配信など待って一話ずつ見るのも良いと思う。(ちなみに自分はパンフ買ってません)
個人的にツボなのは、軍や公安の護衛達がサッカーで盛り上がる場面や赤い旅団の射撃訓練が、チンプなプロパガンダ映画みたいな描写だったりとか、70年代後半が舞台なので当時の車や衣装などの小道具も違和感なく配置してあり、それを補うCGの使い方も巧い。
役者も政治家の面構えと赤い旅団側の70年代感もイイ顔を揃えており、変にイケメンなどに見せずにリアルで素晴らしい。(この辺は80年代末の香港映画や今の韓国映画と同じかな🤔)