「乾ききったこの世界に」SAND LAND サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
乾ききったこの世界に
やったぞ、やりおったぞ。
本当に面白い映画と巡り会えない、映画大飢饉だった近頃。「君たちはどう生きるか」「トランスフォーマー ビースト覚醒」「バービー」「リボルバー・リリー」と大金を叩いた映画が尽く滑り、映画離れが進みつつあった私だが、ようやく出会えた。砂漠が舞台の映画が、全身を潤してくれた。
なんと良くできた映画でしょうか。
慣れ親しんだ鳥山明の作画、プロ声優の安心感、ジャンプらしい胸熱なストーリー。大スクリーンに映し出される広大なスケールと、ドラゴンボールに匹敵するアクションシーンにはテンションを上げずにはいられない。ああ、こういうのが見たかったんだよ。20年以上も前の漫画が原作とは到底思えない、現代を思いっきり風刺したこの物語は、今の私たちにとても重要なメッセージが込められている。カッコイイだけでは留まらない、すごく考えさせられる作品なのです。
単純にロードムービー、冒険ものとして驚くほど面白い。ほんの1秒たりとも飽きさせないんだから、鳥山明にはやっぱり頭が上がらない。クスッと笑えるシーンも沢山あるし、何も考えずとも十分に楽しめる映画だから、子どもたちにもこの夏、1番にオススメしたい。かなり多くのキャラクターが登場するのに、どれもこれもキャラがすごく立っていて魅力的。分かりやすくカッコよくて、分かりやすく悪だから、砂漠に似合わず超爽快。作者の気持ちとかそんなの考えずとも、脳を空っぽにして見れる、最高のアニメ映画。マリオぶりにやって来たぞ。
私たち人間が忘れてしまった、「信用」をベルゼブブたち悪魔は持ち、正しい判断を狂わせる「偏見」を知らない。人間よりも真っ当に生きており、頭がキレて、仲間を信じている。めちゃくちゃ強いのに殺しはしないし、何なら救いの手まで差し伸べてしまう。なのに、偽善者ぽくない。彼らを見ていると、人間が愚かで恥ずかしくなってしまう。この純粋さ、どこに置いてしてしまったのか。未だに戦争が続いていたり、国のトップが私腹を肥やすために国民を牛耳ったり、メディアによって特定の人物に偏見を抱いたり、本作がとても他人事とは思えないこの世の中。世界よ、この映画を見て変わる時が来たぞ。
ラスト辺りはもっとテンポよく華麗に進めれたような気もしたし、ベルゼブブや大魔王について、原作1巻であるためかあまり深堀りされていないようにも思えた。しかし、そんなことはどうでもいい。とにかく、頭で考えるよりも身体が面白い!!と反応したのだから、それでいいじゃないか。エンドロールで流れるユートピアも、本年度主題歌大賞にノミネートされるんじゃないかレベルで名曲でございました。外は暑く、感情もろとも乾ききったこの世界に、一筋のオアシスが現れた。ぜひとも、劇場でこの傑作をご覧下さい。