「「水割りの美酒」をおいしいと思えるか否か」アイドルマスター シャイニーカラーズ 第3章 らりほーまさんの映画レビュー(感想・評価)
「水割りの美酒」をおいしいと思えるか否か
★4点とさせていただいたが、正直もっと低い点を付けて良いと思ってしまったことを、最初にお断りしておきます。
本作に満足された方は、どうかここで回れ右をしていただきたい。
さて、端的に言ってしまうと、本作は原作ゲーム初期の雰囲気を再現する為の長いイメージビデオだった、という印象が残った。
ライブシーンは圧巻だったし、それぞれのキャラクターも好きになった。ストーリーに破綻もなかったし、演技も歌も良い。
けれども、全体が「薄い」。
ほぼずっと真乃視点で進む為に、他のキャラの掘り下げが薄い。
真乃は思い悩むものの、大きな葛藤もなく何となく周囲に励まされて、結果として何とかしてしまう。
ライブまでに大きなトラブルもなく、「みんなで頑張って上手くいきました」で終わってしまう。
非常に優しい世界であるし、情報量が少ない分ライブで元気に飛び跳ねるアイドル達を愛でることが出来るのだが……やはり、もう少しドラマが欲しかった。
第1章を観た後に原作(enza版)を始めて、少なからず原作も気に入った人間の目から見ても、「あのキャラとあのキャラの絡みがあるのに、深掘りはしないのか……」等と思ったことがしばしばあった。
特に、非常に申し訳ないのだが、原作でプロデュース(育成)をあまりしていないキャラクターについては、アニメを最後まで観てもどんな人なのか分からなくて、消化不良に感じてしまった。
アニメキャラ的な「個性」は上手に描いていたと思うが、それだけ。彼女達の生い立ちや、何を悩み何を喜びとしているのかが全く見えなかった。
例えば、凛世がプロデューサーに一途な思いを抱いた田舎から上京してきたお嬢さんであるとか、咲耶さんが立ち振る舞いだけではなく実際に女子ファンから王子のような憧れを向けられているだとか。
1キャラ五分程度でもいいから、彼女たちの境遇や日常の描写や台詞(掘り下げ)があれば、もう少し印象は変わったと思う。
分かったのは恋鐘が料理上手だということと、ちょこ先輩がチョコ好きだという点くらいだろうか(苦笑)。
苦労描写も、別にキャラクターを曇らせる必要はないのだが、例えば「見せ方に悩んでいる時に、三峰さんがアイドルオタク知識からアイディアを出して皆で考えるきっかけになる」だとか、フィジカルが劣るキャラを運動神経抜群のキャラがサポートしてフォーメーションを工夫するだとか、そういう相乗効果を見せて欲しかった。
「力を合わせて乗り越えました。終わり」ではなく、もっと具体的にそれぞれのキャラの特性や特技を活かしてブレイクスルーのきっかけにする展開は出来なかったのだろうか?
そういった描写がほぼ無かったせいで、本作は素晴らしいライブシーンや作画(CG)、声優さんの演技があるにもかかわらず、全体的に薄味で、絶品の美酒を水割りで飲まされたような後味の悪さが残ってしまった。
それはもしかしたら制作陣も自覚していたのか、やたらとキャラクターが物思いにふけるだけのシーンが多かったり、困った時はキャラの顔アップを全員分順繰りに映すというワンパターンな演出に頼っている部分が多々見受けられた。
「間」を大切にしているというよりは、余ってしまった尺を無難なシーンで埋めているといいう印象しか残らなかった。
製作会社のポリゴンピクチュアにしても、まんきゅう監督にしても、脚本の加藤氏にしても、他の作品で大いに楽しませてもらっているので、その実力は理解しているつもりだ。
バンダイナムコ側のスタッフについても、インタビュー記事をいくつか拝見した限りは、作品への愛があり、大切にしようとしている節が窺え、その点は好感が持てた。
けれども、そんな一流の腕と愛を持った人々が集まっても、このように薄味の「もったいない」作品が出来上がってしまうのだな、と少し怖くなってしまった。
尺は十分にあったのだから、真乃がセンターとして一人一人のアイドル達と向き合い、彼女達がアイドルをやっている理由を知る……くらいのシーンはあっても良かったのではないだろうか? せめて、それぞれのユニットのセンターぐらいには、そういう出番があっても良かったのではないだろうか?
例えば、合宿の食事のシーンでのさりげない雑談の中で、それぞれが簡単に自分のことを語る……(それこそアイドルになったきっかけについて披露しあうなど)ということをやっていれば、印象は全然変わったと思う。
冒頭に書いた通り、本作はドラマを描いた連続アニメーションではなく、一本の長い長いイメージビデオだったのだと思う。
だから、それで満足できた方にとっては満点なのだろうが、私のように物語や人物描写を期待していた人間には薄すぎた。
制作陣のどなたかのインタビュー記事で、「サービス開始一年間の雰囲気を形にしたかった」というような言葉があった記憶がある(記憶違いだったら申し訳ない)。
残念ながら原作後追いの私にはそれが成功だったのかどうかは判断がつかないが、高評価をしている方のご感想を見た限り、原作の「雰囲気」の再現度が高いことに満足していたようなので、恐らく成功なのだろう。
残念ながら、私は制作陣がターゲットとしていた層には入らなかったということなのだと思っておく。
長文、失礼しました。