「あえて映像として映し出さないものの”重さ”が伝わってくる一作」映画 窓ぎわのトットちゃん yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
あえて映像として映し出さないものの”重さ”が伝わってくる一作
テレビ番組の草創期から活躍している黒柳徹子(「トットちゃん」)の自伝的小説『窓際のトットちゃん』(1981出版)のアニメーション映画化作品です。
前半部はトットちゃんの視点で描くトモエ学園の日常の描写に力点を置いており、画面は彩りと生命力にあふれていて、仲の良い友達とのちょっとした冒険すら、つい手に汗握る一大ドラマと化します。優しい両親と自由闊達な先生、級友たちに囲まれた生活はしかし、後半部に差し掛かるにつれ、戦時色が濃くなり徐々にその輝きに翳りがさすようになります。
本作はトットちゃんの物語であると同時に、戦前から戦時期に生きた人々の物語でもあります。そのため、トットちゃんの目線で生活がどのように変化していくのか、だけでなく、それまで当たり前に存在していた人が姿を見せなくなったり、街の景観が変化していく様を通じて、意識は否応なくトットちゃんたちを取り囲む重い背景事情に向くことになります。
このように、一見トットちゃんという天真爛漫な主人公に、物語の展開をすべて託しているようで、実は本当に重たい事実については説明もなく、描写もしない、という語りに徹しており、この「語らなさ」がむしろ、物語をより一層忘れがたいものにしています。
親しみやすさを覚えるような人物造形でありながら、チョークの筆致のかすれ具合、傷だらけの机の表面の手触りまで緻密に表現した美術は全編にわたって密度が濃く、また強い現実感を与える音響の出来栄えも特筆に値します。おそらく当時の絵本の絵柄を取り入れたトットちゃんの空想シーンも、場面それぞれに特徴があり、また躍動感に満ちています。
物語も映像も、そして現代のアニメーション作品としても、きわめて高い完成度の作品でした!