劇場公開日 2024年12月13日

「本作のいいところは、基本的な医学知識がわかりやすく身につき、普段の不摂生を改めるきっかけになる作品だということです。」はたらく細胞 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0本作のいいところは、基本的な医学知識がわかりやすく身につき、普段の不摂生を改めるきっかけになる作品だということです。

2024年12月18日
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鑑賞方法:映画館

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 人間の体内の細胞たちを擬人化した斬新な設定で話題を集め、テレビアニメ化もされた同名漫画を実写映画化。原作漫画「はたらく細胞」とスピンオフ漫画「はたらく細胞 BLACK」の2作品をもとに、ある人間親子の体内世界ではたらく細胞たちの活躍と、その親子を中心とする人間世界のドラマが並行して描かれます。

●ストーリー
 人間の体内には37兆個もの細胞が存在し、酸素を運ぶ赤血球(永野芽郁)や細菌と戦う白血球(佐藤健)など無数の細胞たちが、人間の健康を守るため日夜はたらいています。高校生の漆崎日胡(芦田愛菜)は、父の茂(阿部サダヲ)と2人暮らし。健康的な生活習慣を送る日胡の体内の細胞たちはいつも楽しくはたらいていますが、不規則・不摂生な茂の体内では、ブラックな労働環境に疲れ果てた細胞たちが不満を訴えていたのです。親子でも体の中はえらい違いでした。仲良し親子のにぎやかな日常。
 しかし、その体内への侵入を狙う病原体たちが動き始め、漆崎親子の未来をかけた、細胞たちの「体内史上最大の戦い」が幕を開けます!?

●解説
 永野芽郁が赤血球役、佐藤健が白血球役でそれぞれ主演を務め、人間の漆崎茂を阿部サダヲ、その娘・日胡を芦田愛菜が演じる。「翔んで埼玉」「テルマエ・ロマエ」シリーズの武内英樹が監督を務めています。
 白血球を演じる佐藤健が日本刀を振るまう姿は「るろうに剣心」シリーズを連想してしまいますが、実は本作のアクション監督は、実写「るろうに剣心」でスタントコーディネーターを務めた大内貴仁が担当しているので当然立ち回りは似てきます。日本刀を持ち込んだのは、悪乗りといえそうです(^^ゞ

 まず本作のいいところは、基本的な医学知識がわかりやすく身につき、普段の不摂生を改めるきっかけになる作品だということです。
 原作者の清水茜は執筆時点では高校生程度の医学知識しか持ち合わせていませんでした。それかいい意味で医学知識のない人へ、面白可笑しく伝えていく原動力にはなっています。それでいて描かれる医学は結構正確で高度なもの。実は清水のいとこが医師で、執筆の過程でいちいちいとこの医師に確認しながら書き進めていたのだといいます。
 その結果、わたしたちが日常経験している人体の日常の描き方が、医学的には正確なものの、実にユーモラスに描かれていました。
 例えばくしゃみ。隔離した細菌をカプセル状に包み込み、くしゃみロケットに搭載し、細菌を体外放出してロケットが爆発するという展開でした。
 爆笑したのが排便。肛門筋はコントロール出来ても、便意は意識で止めようがありません。外に雪崩を打って出ようとする大便とそれを阻もうする肛門筋との激しい戦いが描かれます。そしてそこには本作の主役である赤血球たちも、便と一緒に体外に放出されまいと必死にしがみついていたのでした。赤血球たちにとっては一難去ってまた一難の手に汗握る展開となっていたのです。

 つぎに本作のいいところは、身体を労ろうと思わせるきっかけとなるところです。例えば日胡の父で阿部サダヲが演じる漆崎茂の体内は、タバコや酒で毒されているのですが、茂が飲酒したり、喫煙したとき体内のはたらく細胞たちは、大洪水に見舞われたり、凄い煙で息もできずに喘いだりと散々な体験をさせられるところが描かれます。あんなにリアルに細胞たちが苦しむ姿を見せられては、少しは細胞たちの苦労を偲んで、不摂生をやめようという気になることでしょう。

 さらに本作の凄いところは、広大な世界観です。全ての細胞が生み出される骨髄にある造血幹細胞の世界は、まるで大きな中世のお城のようです。その広大さを描くために、全国25都市でエキストラ総勢約7500名を動員。 武内監督は、「『翔んで埼玉』や『テルマエ・ロマエ』の比にならない」と自信が手掛けてきた作品と比べながら、「体内には37兆個もの細胞があるので、エキストラもとにかく数をそろえようと取り組んだそうです。
無数のエキストラがうごめく様は圧巻でした。

 加えて、感動ポイントとして細胞の宿主たちのドラマが描かれるところです。原作では宿主は描かないことがお約束でした。ところが本作では宿主の日胡が白血病にかかり、人間パートも細胞パートも大変なことが描かれます。
 特に人間パートでは、母を病気で亡くした父子家庭という背景もあり、非常に泣けるものとなりました。父親の茂を演じる阿部サダオは、持ち前のコメディさを封印し、妻を失い、娘まで失おうとしているのに何もできないところををシリアスに演じています。
 自身の不摂生も、日胡を何とか志望する医大に入学させたいという親心から、休日返上で働いていた反動だったというから泣けてきます。後半は、日胡の闘病生活を通じて、親子の絆の強さが感動的に描かれました。そんな不幸が描かれても本作が暗くならないのは、日胡を演じる芦田愛菜の存在が大きいと思います。

 日胡が罹ってしまう白血病は、血液のがんのこと。白血病細胞によって日胡の体内が冒されていく中、はたらく細胞の世界はまるで戦場のように破壊されていきます。
 そんな過酷ななかでも、永野芽郁演じる赤血球は、なんとか生き残って他の細胞に酸素を届け続けるのでけす。健気に頑張る赤血球役を永野芽郁が好演しています。ファンタジー作品なのに地にしっかり足がついている演技で、何としても酸素を届けるぞという使命感を強く感じさせてくれました。
 また山本耕史演じるキラーT細胞と仲里依紗演じるNK細胞の共演は、なかなかスリリングでした。ふたりの共演によって、わずかな時間でライバル関係を構築し、緊迫した白血病細菌たちとの対決を描き切ったのは、山本耕史と仲里依紗の演技力の賜物といえそうです。

●最後にひと言
 劇中に茂が、娘の闘病生活を経験して少しでも世の中の役に立ちたいと献血の臨む姿を見て、献血やドナーに積極的に協力しようという気にもさせられました。
 ちょうど年末年始は暴食暴飲になりがちですが、そんな時は本作を思い出して、皆さんご自分の細胞を労わって摂生を心がけましょうね。

流山の小地蔵