「卍のパイが素晴らしい擬似ワンカット。」ソフト/クワイエット Mさんの映画レビュー(感想・評価)
卍のパイが素晴らしい擬似ワンカット。
白人至上主義の面々が、会合をひらき、卍のパイのアップにぞっとさせられる。カメラはしばらくパイを撮っていて、これから、何か悍ましいことが起こるという不吉な予感を誘われる。
このパイが、全編を牽引する起爆剤になり、客は一気に引き込まれる。なかなかの好スタート。
神父に追い出された瞬間、表示が凍るエミリー、人格が瞬時に変わってしまったかのような、ギアが入り、ゾッっとさせられる。
舞台は
スーパーにうつり、
ワインを買いなさいよ…とアン達につめたく放つエミリー、また彼女にギアが入る。
その後も取り乱すたびに、冷静になる為にひと息つき、ドンドンとギアアップしていくエミリー。
、人格にヒビが入っていく様子はホラー映画のヒロインとして相応しい。演じた女優さんも素晴らしかった。
最後は白いシャツが血まみれになるのを期待していたのは私だけか…
スーパーでようやく事件の発端が起こる。
嫌な不吉なことが現実に起きようとする
私たちは観客として自己投影し愛着を持ちつつある主人公たちが、どうか事件や事故を起こさず平安であれ、と潜在的に願っている。
だから、何か問題が起きそうで、しかも銃が出てきた瞬間には胃が縮みそうなくらい不安が掻き立てられる
。
しかし、ヒートアップは瞬間的で、これからだ、というところで、二人の有色人種はかえってしまう。いま思えば、不安のマックスでエンタメ、アトラクションのピークはあの場面であった。
あの場面をもっと引っ張って欲しかった。
不安をもっといたずらに煽って欲しかった。
そのために冒頭から、会合で有色人種差別のイデオロギーを高め合ってきたのに。
その後、一行は、また舞台を映す。
(ワンショット映画として、デイからイブニング、ナイターへの移り変わりが素晴らしい。リアルタイムのマジックタイムが美しかった。四日間かけて撮影したらしいが、ところどころ、擬似ワンショットにみせるための、カットの編集点を作って時間を区切って撮影しているのだろうが、陽の光の繋がりが素晴らしかった。)
アンの家での出来事も描写が粗末で、、
痛ぶるまでもなく、アレルギーで死ぬ妹…
拍子抜けだ…。なんだつまらん…それでは白人グループが、魔女に変貌していく様が見れない…。
しかも、すぐにあっけなく死なせてしまう。アンももう少し妹を助ける努力したらいいのに…。
その後、レイプにみせかけるとか言いつつ、あっけなくクッションでアンを窒息死させるが、窒息死には時間が短いし、手足の拘束解けたアンを放置して会議する面々…。
エミリーとの過去のわだかまりも、引き合いに出さずにあっけなく死なせる…。
人種への憎悪より、個人的怨恨も、エミリーたちの復讐の動力源になっていたはずなのにそれも解決されず…
妹を失って、アン自身が精神崩壊する様も見たかった。被害、加害の転換、弱者が被害者になり、急に加害強者になり、主人公たちを追い詰める様を描いてほしかった。
カメラと彼女たちがリアルタイムで出来ることの都合上、描写があまりにも雑で…。そのあたりから興醒めして陳腐なものをみせられてガッカリする気持ちになった。やはり、新人監督には…力不足か…
さいごに
しかし、まあ、エミリーのお片付けがなんと雑なこと…(教会のサロンは誰がどうやって片付けたのかしら、、まあ、お片付けの苦手なエミリーのことだから、パイの食べかすとか、散らかしまくってるんだろうな…)
黒人清掃員のカートをひきづる不快な音しかり、アンの家での家電製品のなる運転音…
まあ、不快な音響効果…ワンショット映画はフレームの外のセリフや効果音の設計が普通の映画以上に効果を発揮することがわかって勉強になりました。