劇場公開日 2023年10月6日

「「正しい戦争」はない」旅するローマ教皇 島田庵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「正しい戦争」はない

2025年5月5日
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鑑賞方法:VOD

ナレーションは一切ない。
文字データも、冒頭で概略が示される以外は、訪れた地名のみ。
BGMも最小限。基本、現地の音と声。

「一緒に旅にでましょう」っていうポスターのコピーは、軽薄至極で鳥肌が立つ。

教皇フランシスコ(アルゼンチン出身、初のイエズス会出身、在位2013~25)の旅は、そんな軽薄なものではない。

イスラムとの対話、正教との対話、そして虐待への謝罪、等々。
タフな旅である。
ときには、マスコミの取材にキレたりする。
(これも、のちに謝罪)

* * *

ただ、「旅する教皇」と言われたのは、彼が初めてではない。
初めてそう呼ばれたのはおそらく、パウロ6世(イタリア出身、在位1963~78)。
教皇として初めて五大陸を巡り、教会改革も推進した。

つづくヨハネ・パウロ1世(イタリア出身、1978年8~9月)は在位が短かった(改革派だったが故の暗殺、とする説がある)が、

その後継のヨハネ・パウロ2世(ポーランド出身、在位1978~2005)は、パウロ6世をはるかにしのぐスケールで世界を訪問して「空飛ぶ教皇」と呼ばれ、
そもそもポーランド出身ということもあり、冷戦終結とその後の世界で重要な役割を果たした。

ただ、その次のベネディクト16世(ドイツ出身、在位2005~13)が保守派だったことが、
フランシスコの「旅」を際立たせているのかもしれない。

* * *

教皇フランシスコが一貫して訴えたのは、
人間の尊厳、共存、寛容、平和。
「すべての戦争は正しくない。正しい戦争はない」
――まさしくその通りだと思う。

彼に権威はあっても、権力はなかったかもしれない。
しかし、理想を語り続けた。
語り続けることは、重要。

ただ、
語るだけ、という空疎なものに終わらせないためには何が必要か、
カトリック(なかんずくイエズス会)の過去の所業を振り返ると、さらなる省察が必要だろう。

* * *

ともあれ、
教皇フランシスコの冥福を祈ります。
そして新教皇として、
変な人が選ばれませんように。

島田庵
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